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 平成 8年版 犯罪白書 第3編/第9章/第2節/4 

4 犯罪及び被害者対策

 テロ犯罪の増加に加え,強盗,不法行為目的侵入等の犯罪が顕著な増加を示し,一方,少年による凶悪犯罪が連続して発生したことが原因となり,1994年11月「刑事司法及び公共秩序法」(Criminal Justice and Public Order Act 1994)が成立した。その内容は,犯罪者の検挙及びその処罰を的確に行えるようにするとともに,凶悪犯罪に対し,より厳しい罰則を定め,一般市民を犯罪から守る包括的対策を盛り込んでいる。同法によれば,12歳から14歳までの年少犯罪者に対して,成人であれば刑務所に収容できる犯罪を3個以上犯して有罪とされた場合等に,6月以上2年以下の一定期間,収容訓練施設(secure training centre)に収容され,その後は引き続き一定期間保護観察官の監督を受けることとされ(1条及び3条),また,銃器対策として,銃器の不法所持等の法定刑を引き上げた(157条5項)。
 銃器を使用した強盗は,減少の傾向にあるものの,依然として年間4,000件を超えている。また,「銃器法」(Firearms(Amendment)Act1988)が規制する銃器の違法所持は増加しつつある。そこで,内務省は,1年のうち一定期間を定め,この期間内に違法銃器の所持者が任意提出すれば訴追しない制度(firearms amnesty)をとり,銃器犯罪の減少に努めている。
 イギリスは,1964年以来,犯罪の被害者に対して国家が賠償をする犯罪被害者補償制度(Criminal Injuries Compensation Scheme)を実施している。
 1994年4月に運用規定が変更され,被害者の職業,収入等に関係なく,受けた傷害の程度に対応した定率に従い補償金が支払われるようになり,補償はより迅速に行われるようになった。犯罪被害者補償制度に定められた補償の最高額は25万ポンドである。
 1974年以来の歴史を持つ,民間組織の全国被害者援助協会(Victim Support)による幅広い被害者援助も行われている。この協会の年次報告書によれば,協会はイングランド,ウェールズ及び北部アイルランドに378の地方組織を有し,本部及び各地域において総計811人の有給職員と約1万1,100人のボランティアが活動している。援助の対象は年間100万件以上であるが,その半数は不法行為目的侵入(burglary)に関するものであり,殺人は725件である。この組織は,政府からの財政的援助を受け,警察から犯罪被害者に関する情報を自動的に(ただし,殺人等の重大な犯罪に限り被害者又は家族の承諾の後に)受け取ることができる。
 援助の内容は,援助協会に所属する有給職員又はボランティアによる電話,,文書又は面接による精神的な援助,証人となった場合に法廷への付き添い等の実践的援助などである。特に,殺人被害の遺族等に対し,長期の専門的な支援制度を確立した。
 政府が1990年2月に発表した被害者憲章(Victims Charter: Statement of the Rights of Victims of Crime)には,それぞれの刑事司法機関が刑事手続において実施すべき被害者保護の原則が示されている。この憲章の他に,裁判所,検察庁,警察等の各機関において,独自の被害者保護に関する基準が定められている。
 この被害者憲章によると,無期刑受刑者の釈放に当たって,保護観察所に対し,特に無期刑受刑者が釈放後に就業する場所,住居,外出先について条件を付けることが適当かどうか検討する際に,被害者又は被害者の家族と機会を見つけて接触し,加害者の釈放について不安を抱いていないか調査するよう求めている。
 1996年6月には,新被害者憲章(Victims Charter:statement of service standards for victims of crime)が発表され,刑事司法の各段階で,被害者がどのような援助を受けることができるかが,より明確にされた。
 なお,刑事裁判所権限法(Powers of Criminal Courts Act 1973)35条1項によると,刑事裁判において,有罪を決定した裁判所は,犯罪から生じた身体的傷害,損失又は損害について,有罪とされた加害者に対し補償命令(compensation order)を命ずることができる。さらに,同4項において,裁判所は,補償命令の可否及びその金額を決定するに当たり,知り得る限り,有罪とされた加害者の資力について考慮すべきことが定められている。