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 平成 8年版 犯罪白書 第2編/第3章/第3節/1 

第3節 更生保護

1 概  説

 平成7年5月8日,「更生保護事業法(平成7年法律第86号,以下「事業法」という。)」並びに「更生保護事業法の施行及びこれに伴う関係法律の整備等に関する法律(平成7年法律第87号,以下「整備法」という。)」の二法律が公布,一部施行され,同8年4月1日付けで全面施行された。また,事業法の全面施行に伴い,更生緊急保護法(昭和25年法律第203号,以下「更緊法」という。)は廃止された。
 更緊法により認可を受けて更生保護事業を営んでいた更生保護会の大半は,民法上の財団法人又は社団法人であったところ,犯罪前歴者の再犯防止や社会復帰を助けるなど刑事政策上重要な役割を果たしてきたにもかかわらず,経営基盤がぜい弱であるなど多くの困難に直面していた。事業法の目的は社会福祉事業法による社会福祉法人制度と同様に,事業法による更生保護法人制度を創設することにより,社会福祉法人との法制度上の各種の格差を解消するなど,更生保護事業の適正な運営の確保と充実発展を図ることにあった。
 事業法が,従前の更緊法と異なる主な点は次のとおりである。
(1) 更生保護事業の概念の明確化
 事業法は,更生保護事業を継続保護事業,一時保護事業及び連絡助成事業の3種類とし,それぞれについて,事業の範囲や対象となる者を明確に規定した。このうち,継続保護事業と一時保護事業は,更緊法に規定する更生保護を行う事業に相当するが,事業法は,その事業の対象となる者に救護及び援護の措置の対象となる保護観察対象者を含めることを規定するとともに,従来の更生保護会が独自に保護を行ってきた罰金又は科料の言渡しを受けた者や少年院退院者等の犯罪・非行前歴者についても事業の対象に含めた。また,連絡助成事業については,継続保護事業,一時保護事業及びこれらの事業の対象となる者の更生を助けることを目的とする事業に関する啓発,連絡,調整又は助成を行う事業とした。
(2) 更生保護事業に対する国の責務と地方公共団体の協力
 国は更生保護事業の適正な運営の確保とその健全な育成発達を図るため,必要な措置を講ずべき旨を規定し,また,地方公共団体は更緊法と同じく自ら更生保護事業を営むことができるとしたほか,新たに,その地域において行われる更生保護事業に対して必要な協力ができる旨規定した。
(3) 更生保護法人制度の創設
 更生保護事業を営むことを目的として,事業法の定めにより法務大臣の認可を受けて設立される法人を「更生保護法人」とし,その設立手続,法人の組織,管理,解散,合併及び法務大臣による監督についての所要の規定が設けられた。更緊法の廃止に伴い,更生保護会の名称は消滅し,事業法で規定された継続保護事業を行う施設は,更生保護事業法施行規則(平成8年法務省令第25号)により「更生保護施設」と規定された。
 一方,整備法では,事業法を施行するための経過措置や関係する法律の一部改正が定められた。この整備法は,事業法の全面施行に伴い,更緊法を廃止することを規定するとともに,犯罪者予防更生法(昭和24年法律第142号,以下「更生法」という。)の一部を改正し,更緊法中の更生保護の措置に関する規定と同旨の規定を,「更生緊急保護」の措置として更生法中に設けるとともに,更生法及び執行猶予者保護観察法(昭和29年法律第58号)を改正して保護観察対象者に対干る救護及び援護の措置は,更生保護事業を営む者その他の適当な者に委託して行うことを明確に規定することとした。また,経過規定として,民法に基づいて設立された公益法人である既存の更生保護会が更生保護法人に移行するための組織変更という特別の手続を規定した。
 また,更生保護法人に対しては,法人住民税の優遇措置など,新たな税制上及びその他の優遇措置が採られることになった。
 なお,本節において,更緊法廃止前の更生保護会の名称に係る部分については,更生保護施設と読み替えて記述することとする。