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 平成 7年版 犯罪白書 第4編/第6章/第1節 

第6章 薬物犯罪受刑者の特質と処遇

第1節 特  質

 IV-22図は過去25年間における新受刑者中,覚せい剤取締法違反による新受刑者の比率の推移を男女別に見たものである。
 薬物犯罪新受刑者中,覚せい剤取締法違反の新受刑者は,昭和30年には3,449人(新受刑者総数の6.4%)と高い水準を示し,その後,35年,40年,45年と100人台の低い水準で推移した後,48年に1,011人と1,000人台を超えてから,急激に増加し,59年には8,646人(同27.0%)に達し,最高を記録した(ただし,女子の最高は60年の784人である。)。

IV-22図 覚せい剤取締法違反による新受刑者の比率の推移(昭和45年〜平成6年)

 その後は徐々に減少し,平成6年は5,243人(同24.7%)となったが,なお,高い水準にあり,新受刑者総数に占める比率も依然として高い。特に女子のそれは,昭和56年以降50%台を下ってはいない。
 一方,麻薬事犯新受刑者は,平成元年以降増加しており,6年には96人(男子85人・女子11人)であった(巻末資料IV-8表参照)。
 平成6年12月31日現在の覚せい剤事犯受刑者数は,全受刑者総数の25.3%(9,476人)を占め,特に女子においては女子受刑者総数の45.7%(730人)となっており,矯正処遇上無祝し得ない数値である。
 覚せい剤事犯検挙人員が,第二次大戦直後における急激な増加とその後の沈静化を経て,再び増加を始めた昭和40年代後半から既に20年以上を経過し,この間に矯正施設に収容されている覚せい剤事犯受刑者は変化しつつある。
 ここでは,矯正統計年報により,覚せい剤事犯新受刑者の特質のうち,年齢,男女別,国籍,執行猶予歴,刑期,累犯,再犯期間,再入状況,入所度数及び配偶者の有無について,覚せい剤事犯新受刑者が7,000人を超えた昭和56年(7,249人)と,平成6年における覚せい剤事犯新受刑者(5,243人)とを対比し,適宜,それぞれの年次における新受刑者中,覚せい剤事犯を除くその他の受刑者(昭和56年2万3,087人・平成6年1万6,023人)との比較を行うこととする。
 IV-23図は,覚せい剤事犯新受刑者の年齢層別構成比を男女別に見たものである。男子は,昭和56年では30歳代が最も多かったが,平成6年になると,40歳代及び50歳以上が増加し,高齢化が進行している。一方,女子については,昭和56年には30歳代が最も多かったが,平成6年になると30歳未満が38.2%と増加し,男子とは反対に低年齢化の傾向がある(ただし,50歳以上の者も若干増加している。)。
 覚せい剤事犯新受刑者に占める女子の比率を見ると,昭和56年は6.9%,平成6年では9.3%となり,その他の新受刑者に占める女子の比率(昭和56年2.1%・平成6年2.9%)と比べると,高い水準にあり,覚せい剤犯罪と女子のかかわりは依然として深いものがある。

IV-23図 覚せい剤事犯新受刑者の年齢層別構成比

 覚せい剤事犯新受刑者のうち外国籍を有する者は,昭和56年は3.7%,平成6年は3.9%であり,上昇の比率はわずかである。その他の新受刑者に占める,外国籍を有する受刑者の比率は56年が2.9%,6年が4.3%である。
 なお,F級(日本人と異なる処遇を必要とする外国人受刑者)の新受刑者総数に占める覚せい剤事犯新受刑者の比率は,56年では7.1%(3人)であり,6年では6,7%(21人)であるが,麻薬取締法違反新受刑者の比率は,56年の9.5%(4人)から6年の17.0%(53人)と大幅に上昇している。
 IV-24図は,覚せい剤事犯新受刑者及びその他の新受刑署のうち,初人者の執行猶予歴別構成比を見たものである。
 覚せい剤事犯新受刑者は,初入者であっても執行猶予歴のある者が多い。
 平成6年と昭和56年を比較すると,覚せい剤事犯新受刑者も,その他の新受刑者も執行猶予歴のない者の比率が減少しており,単純執行猶予歴のある者の比率及びその増加の程度は,覚せい剤事犯新受刑者の方が高い。

IV-24図 覚せい剤事犯新受刑者及びその他の事犯新受刑者中初入者の執行猶予歴別構成比

IV-25図 覚せい剤事犯新受刑者の刑期別構成比

 IV-25図は,覚せい剤事犯新受刑者の刑期別構成比について見たものである。昭和56年には1年以下の者が50.9%であったが,平成6年には10.2%と減少し,一方,1年を超え2年以下の刑期の者は56年の37.5%から6年の62.7%と上昇している。
 覚せい剤事犯新受刑者総数の中で,累犯は昭和56年には50.6%,平成6年には60.7%であり,わずかながら上昇しているが,女子についてこれを見ると,56年には22.3%であったものが,6年では45.1%となっており,その差はより明らかである。
 覚せい剤事犯新受刑者のうち,再入者の再犯期間を男女別に見たものがIV-12表である。昭和56年と比べ,平成6年は再犯までの期間が男女とも長くなっている。

IV-12表 覚せい剤事犯新受刑者の再犯期間

 平成元年に出所した覚せい剤事犯受刑者について,同種犯罪による6年までの再入率を見たものがIV-13表である。

IV-13表 平成元年出所覚せい剤事犯受刑者の再入状況

 法務総合研究所の調査によれば,昭和52年に出所した覚せい剤事犯受刑者について,57年までに同種犯罪により再入した者の比率は,総数(2,112人)では40.2%,男子(2,048人)では39.9%,女子(64人)では48.4%であり,平成元年に出所した覚せい剤事犯受刑者の方が,総数・男・女とも再入率が低い。この変化は,これまで行刑施設において実施されてきた覚せい剤事犯受刑者に対する種々の処遇の効果を積極的に評価する材料になるものと考えられる。
 次に,昭和56年及び平成6年の覚せい剤事犯新受刑者の入所度数別人員を男女別に見たのがIV-14表である。
 男女とも初入者は減少し,再入者が増加している。女子における初入者の比率は,男子と比べ高い。

IV-14表 覚せい剤事犯新受刑者の入所度数別人員

 覚せい剤事犯新受刑者のうち,2回以上入所した者について,前刑罪名が覚せい剤取締法違反であった者を見ると,昭和56年には51.0%であったものが,平成6年には74.9%と上昇している。
 覚せい剤事犯新受刑者及びその他の新受刑者について,配偶者の有無等を見たのがIV-26図である。どちらも,離別及び未婚の比率が上昇している。

IV-26図 覚せい剤事犯新受刑者及びその他の事犯新受刑者の配偶者関係