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 平成 7年版 犯罪白書 第3編/第6章/第2節/1 

第2節 財政経済犯罪

1 脱税事犯

(1) 検察庁における受理状況等
 III-40図は,最近10年間の全国検察庁における,所得税法違反,相続税法違反及び法人税法違反の新規受理人員の推移を見たものである。平成4年に急増した所得税法違反は,5年に減少したものの,6年には再び増加して191人となり,3年以前の数年間と比べるとかなり多くなっている。相続税法違反は,昭和60年以降おおむね減少傾向にあり,平成5年は受理がなかったが,6年は4人となっている。また,法人税法違反は,3年以降5年まで増加していたが,6年は前年より179人(51.1%)減少して171人となっている。

III-40図 所得税法違反・相続税法違反・法人税法違反の検察庁新規受理人員の推移          (昭和60年〜平成6年)

 III-26表は,最近5年間の各会計年度に,国税庁から検察庁に告発された所得税法・相続税法違反及び法人税法違反事件について,告発件数,1件当たりの脱漏所得額・脱税額の推移を見たものである。平成6年度(会計年度)においては,告発件数は合計153件で,その内訳は,所得税法・相続税法違反が61件,法人税法違反が92件となっている。1件当たりの脱漏所得額は,所得税法・相続税法違反では約6億1,000万円(前年比19.8%増),法人税法違反では約3億2,700万円(同47.4%減),1件当たりの平均脱税額(加算税額を含む。以下同じ。)は,所得税法・相続税法違反では約3億4,600万円(同30.1%増),法人税法違反では約1億8,100万円(同51.3%減)となっている。また,脱漏所得額が5億円以上の事件が35件,脱税額が5億円以上の事件が11件となっている。

III-26表 所得税法・相続税法違反及び法人税法違反事件の告発件数並びに1件当たりの脱漏所得額・脱税額(平成2〜6各会計年度)

 なお,このほか,消費税法違反による告発が2件あり,平成6年度(会計年度)における総告発件数は155件であるが,これらについての業種別件数の内訳は,最も多いのが建設業の35件(22.6%)で,次いで,製造業の18件(11.6%),卸売業の17件(11.0%),不動産譲渡の15件(9.7%),遊技場の7件(4.5%)等となっている。また,脱税の手段・方法については,売上げ除外や架空原価の計上等のほか,特異な例として,特定の公職の候補者を推薦・支持する政治団体に対する寄付が所得控除の対象となるという税法上の特典を悪用し,架空寄付金を計上して所得税を免れたものがある。脱税によって得た利益の留保形態は,大半が預貯金,有価証券又は不動産となっている(国税庁の資料による。)。
(2) 検察庁における処理状況
 III-27表は,最近5年間の全国検察庁における所得税法違反,相続税法違反及び法人税法違反の起訴・不起訴人員の推移を見たものである。
 所得税法違反,相続税法違反及び法人税法違反の各起訴率は,平成4年までおおむね90%前後を推移していたが,5年は所得税法違反が26.2%に急下降し,6年は50.3%と前年と比べて上昇したものの,従来の起訴率から見ると相当低くなっている。これは,5年については,多数の市民により告発がなされた国会議員1人に対する所得税法違反事件多数が不起訴処分に付されたことによるものであり,6年については,特定の公職の候補者を推薦・支持する政治団体に対する寄付が所得控除の対象となるという税法上の特典を悪用し,国会議員等が多数の納税義務者と共に,不正に所得税の還付を受けたという特異な所得税法違反事件につき多数の納税義務者が不起訴処分に付されたことによるものである。また,法人税法違反の起訴率は5年以降も従来と同様の水準で推移し,6年は91.7%となっている。相続税法違反については,5年,6年と処理例がない。

III-27表 所得税法違反・相続税法違反・法人税法違反の起訴・不起訴人員(平成2年〜6年)

(3) 裁判所における処理状況
 司法統計年報及び最高裁判所事務総局の資料によれば,平成6年の通常第一審における終局処理人員は,所得税法違反が60人で,その内訳は有期懲役58人,罰金1人,公訴棄却1人となっており,相続税法違反はなく,法人税法違反が206人で,その内訳は有期懲役104人,罰金100人,無罪2人となっている。
 また,最近5年間の通常第一審において所得税法違反,相続税法違反又は法人税法違反により有期懲役を言い渡された者の刑期を見たものが,III-28表である。平成6年は,刑期が5年以下が1人(総数の0.6%),3年が1人(同0.6%),2年以上3年未満が26人(同16.0%),1年以上2年未満が111人(同68.5%),6月以上1年未満が23人(同14.2%)となっており,1年以上2年未満の刑期が最も多い。執行猶予率は87.0%となっている。

III-28表 通常第一審における所得税法違反・相続税法違反・法懲役の科刑状況(平成2年〜6年)