前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成 6年版 犯罪白書 第4編/第1章 

第4編 犯罪と犯罪者の国際化

第1章 はじめに

 近年,交通・通信手段の飛躍的発達や,経済,社会等の諸分野における国際交流の活発化等により,多くの分野で国際化が進展し,来日する外国人の数も増大している。これに伴い,犯罪と犯罪者も国際化し,いわゆる来日外国人による不法残留等の入管法違反事件や一般犯罪が増加するとともに,犯罪者が国外に逃亡する事例も増加し,また,必要な証拠が国外にある事例も少なくない。
 そのような中で,平成元年に入管法の一部改正により不法就労助長罪を新設するなど,不法就労・不法残留等の防止のための諸施策が講じられているが,不法残留外国人は,平成5年11月1日現在,なお約29万7,000人に達していると推計されている。また,我が国においては,既に,昭和28年に逃亡犯罪人引渡法を,55年に国際捜査共助法をそれぞれ制定して国際協力体制を整備し,さらに,平成3年には麻薬特例法を制定して,薬物犯罪に関し,国際共助手続の整備を図ったところであるが,逃亡犯罪人の引渡しや,証拠その他関係資料の収集等につき捜査共助等の国際的な協力を行う必要性も一層高まっている。
 他方,来日外国人事件(来日外国人が被疑者・被告人となった事件)の捜査公判や外国人被収容者の処遇等においては,言語,風俗・習慣,宗教等を異にする外国人を対象とすることなどから,有能な通訳人の確保と正確な通訳の実現,日本語を解さない外国人被疑者・被告人に対する適正手続の実質的保障,日本人と異なる処遇を必要とする外国人被収容者等に対する効果的な処遇の実施等をめぐり種々の問題があり,検察,裁判,矯正保護等の各分野においては,これらの問題に対応するため,通訳人名簿の作成をはじめ,各種方策が講じられている。
 このように犯罪と犯罪者の国際化は,我が国の刑事司法に対し,様々な問題を投げかけており,これに対する対応は,我が国の刑事政策における重要な課題の一つであるといえる。
 そこで,本白書においては,「犯罪と犯罪者の国際化」という標題の下に,来日外国人による犯罪をはじめとする犯罪と犯罪者の国際化の問題を取り上げ,これに対する有効適切な方策を講ずる上で役立つ資料を提供しようと試みた。そのため,法務総合研究所において,各種の公刊されている統計資料等に基づき,来日外国人による犯罪の動向,来日外国人事件の処理や外国人被収容者の処遇等の実情について分析検討を行うとともに,諸外国における外国人犯罪の動向等について調査分析を行った。さらに,刑事処分に関する特別調査やF級受刑者(日本人と異なる処遇を必要とする外国人受刑者)及び少年鑑別所に収容された来日外国人非行少年を対象とした特別調査を実施した。刑事処分に関する特別調査は,平成3年及び4年中に,東京地方検察庁・同区極察庁において処理された来日外国人による傷害事件を対象とし,これと日本人による傷害事件とを比較しつつ,事犯の実態や処分・科刑状況について調査分析したものである。また,F級受刑者を対象とした特別調査は,職員が記載する調査票とF級受刑者に対する質問用紙を用いた調査により,その特質と意識等を分析検討したものであり,少年鑑別所に収容された来日外国人非行少年を対象とした特別調査は,その他の入所少年と比較しつつ,その非行内容や生活環境等について調査分析したものである。
 これらの結果を踏まえて,第2章では,来日外国人犯罪の背景となる外国人の出入国の動向と出入国管理の概況について,第3章では,来日外国人による犯罪と外国人を被害者とする犯罪の最近の動向について,第4章では,特別調査結果を含めて,来日外国人に対する刑事処分と来日外国人事件における刑事手続上の問題等について,第5章では,特別調査結果を含めて,F級受刑者の処遇等について,第6章では,特別調査結果を含めて,来日外国人非行少年の処遇について,第7章では更生保護と国際化について,第8章では,日本人の国外における犯罪と犯罪被害のほか,犯罪の国際化の現状について,第9章では刑事司法における国際協力について,第10章では諸外国における外国人犯罪と外国人犯罪者について,それぞれ述べることとする。