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 平成 6年版 犯罪白書 第2編/第3章/第1節/1 

第3章 矯正保護

第1節 成人矯正

1 新しい行刑の動向

 現行監獄法は,明治41年に制定されて以来約90年,実質的改正をみることなく今日に至っているが,その間における社会情勢の変化や国際的な人権思想の高まり,刑事政策思潮の発展等を考えると,その全面改正は今や喫緊の課題となっている。すなわち,現行監獄法の改正の必要性を挙げれば,次のとおりである。
[1] 現行監獄法は,被収容者の権利及び義務の関係が法律上明確にされていないだけでなく,受刑者の社会復帰を促進するという現代の行刑理念も明確に規定されていない。
[2] 刑事施設の運営を時代に適合したものとするため,これまで省令,訓令,通達等の制定や改廃が繰り返された結果,監獄法令の体系が複雑で分かりにくいものとなっており,職員の円滑な職務執行に困難を来している。
[3] 現行監獄法は,これまでに実質的な改正は一度もされていないため,条文は片仮名交じりの文語体でなじみが薄く,また,既に死文化している条文もあって,もはや現代社会では通用しにくいものとなっている。
 このような事情にかんがみ,行刑の近代化(形式・内容とも,時代に合ったものにする。),国際化(国際条約や準則,その他世界の各国における行刑の新しい立法や理念を検討し,必要なものは取り入れる。)及び法律化(被収容者の権利・義務に関する事項その他処遇の基本となる重要な事項は,できるだけ法律で明確に規定する。)を図り,刑事施設の被収容者に適切な処遇を行うことなどを目的として,昭和57年,第96回国会に監獄法の全部を改正する刑事施設法案が提出された。しかし,翌年11月の衆議院の解散により廃案となり,その後,62年及び平成3年にも同法案が国会に提出されたが,いずれも衆議院の解散により廃案となった。
 しかしながら,同法案が提出されるに至った経緯等にかんがみると,その実現の必要性には,いささかも変わりがないものと思われる。
 監獄法改正の重点は,次のとおりである。
[1] 被収容者の書籍の閲覧,面会及び信書の発受,宗教上の行為等被収容者の権利事項を明示するとともに,規律秩序維持の要件と限界や懲罰の適正手続等生活及び行動に対する制限の根拠と限界を明確にし,併せて簡易迅速な手続により被収容者の権利救済を図るための不服申立制度についても規定することとしている。
[2] 被収容者に適正な生活条件を保障するため,被収容者には食事,衣類,日用品その他日常生活を営むのに必要な物を支給又は貸与することを明示するほか,被収容者が自弁の物を使用し得る範囲を拡大し,また,運動,入浴,健康診断,傷病の診療等,保健衛生及び医療に関する施策を充実することとしている。
[3] 受刑者の改善更生のための効果的な処遇制度を確尭するため,その処遇は,個々の受刑者の資質及び環境に応じて,最も適切な方法で行うという「処遇の個別化」の原理を明らかにし,特に矯正処遇としての作業,教科指導,治療的処遇及び生活指導については,個々の受刑者の特性に応じた適切な処遇要領に基づいて計画的に行うことを明らかにしているほか,外部通勤作業,外出,外泊等の効果的な処遇方策を導入することとしている。
[4] 現行のいわゆる代用監獄制度については,刑事施設に収容される者と留置施設に収容される者の処遇に差を生じないよう規定を整備するほか,代替収容の対象を限定するなどの制度的改善を加えることとしている。