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 平成 6年版 犯罪白書  

はしがき

 近年の国際化の進展に伴い,海外に渡航する日本人が増加するとともに,来日する外国人の数も飛躍的に増大し,外国人新規入国者数は,このところ年間300万人を超えている。また,我が国に不法に残留する外国人も,平成5年11月1日現在で約29万7,000人に上っていると推定されている。これらを反映して,日本人の国外における犯罪や犯罪被害が多発するとともに,いわゆる来日外国人特有の,集団密入国等の不法入国事件や不法就労を目的とした不法残留事件等の出入国管理及び難民認定法違反事件が増加するほか,来日外国人による一般犯罪や外国人を被害者とする犯罪も増加するなど,犯罪と犯罪者も国際化している。
 ところで,来日外国人を被疑者・被告人とする事件の捜査公判や外国人被収容者の処遇等においては,言語,風俗・習慣,宗教等を異にする外国人を対象とすることなどから,有能な通訳人の確保と正確な通訳の実現のほか,日本語を解さない外国人被疑者・被告人に対する適正手続の実質的保障,日本人と異なる処遇を必要とする外国人被収容者等に対する効果的な処遇の実施等をめぐり種々の問題がある。また,犯罪者が国外に逃亡する事例も増加し,必要な証拠が国外にある事例も多いことなどから,逃亡犯罪人の身柄の引渡しや,捜査共助,司法共助等の国際協力を必要とする事例も増えっつある。
 このように,犯罪と犯罪者の国際化は,我が国の刑事司法に対し,様々な問題を投げかけており,来日外国人による犯罪の防止と来日外国人を被疑者・被告人とする事件の適正な処理及び外国人被収容者等に対する効果的な処遇の実施,刑事司法における国際協力の推進等は,我が国の刑事政策における重要な課題の一つであるといえる。
 そこで,本白書では,例年どおり平成5年を中心とした最近における犯罪動向と犯罪者処遇の実情を概観するとともに,特集として「犯罪と犯罪者の国際化」を取り上げ,我が国における来日外国人による犯罪と外国人を被害者とする犯罪の動向や,来日外国人を被疑者・被告人とする事件の処理,外国人被収容者の処遇の実情等のほか,刑事司法における国際協力の現状や諸外国における外国人犯罪の動向等を概観し,必要な分析を加えることにより,来日外国人による犯罪の動向や背景を明らかにし,来日外国人による犯罪の防止のために有効適切な方策を講ずる上で役に立つ資料を提供しようと試みた。
 本白書が,来日外国人による犯罪の防止等を含め,犯罪の防止と犯罪者処遇の進展にいささかでも寄与することができれば幸いである。
 終わりに,本白書を作成するに当たっては,最高裁判所事務総局,警察庁,外務省,厚生省その他の関係機関から多大の協力と援助を受けた。ここに厚く謝意を表する次第である。
平成6年10月
亀 山 継 夫 法務総合研究所長