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 平成 5年版 犯罪白書 第4編/第3章/第2節/3 

3 交通切符と交通反則通告制度

 道路交通法が施行されたのは昭和35年12月20日であるが,その翌年である36年には約328万件,37年には約444万件と,同法違反の取締件数は極めて考く,かつ,激増する傾向にあったため,その迅速処理のために,38年1月から,「道路交通法違反事件迅速処理のための共用書式」,いわゆる交通切符制度が導入された。交通切符は,告知票・免許証保管証,交通事件原票,徴収金原票,取締り原票,交通法令違反事件簿等から構成されており,複写式で検察庁や裁判所において共用できる書類であり,同法違反者の取締りに当たる警察官の書類作成を簡略化して,略式手続又は交通事件即決裁判手続をより迅速に処理できるようにしたものである。
 しかし,その後も同法違反の取締件数は増加し,昭和42年には約472万件に達し,導入された交通切符制度をもってしても,激増した道路交通法違反事件の処理にはかなりの時間と労力を要するなど,国民と国家の双方に不利益な結果となってきた。また,このような大量の違反者が,その違反の軽重を問わず,すべて刑罰を科されることは,刑罰の感銘力を乏しくし,刑罰の効果を減殺する結果となってきた。このような事態は,刑事政策の見地から問題であるだけではなく,交通の安全は国民の積極的努力によって確保すべきであるとする交通政策の見地からも好ましくない。こうした問題に対処するため,同法違反のうち,悪質でなく,かつ,危険性の低い行為については行政機関の通告に基づく定額の反則金の納付により刑事訴追を行わないこととする制度を新設すること等が必要とされ,42年の同法改正によって交通反則通告制度が導入され,43年7月1日から施行された。
交通反則通告制度による手続の流れは,IV-20図のとおりである。

IV-20図 交通反則通告制度による手続の流れの概略

 交通反則通告制度は,車両等の運転者等が行った一定の道路交通法違反を反則行為とし,反則行為をした者のうち,無免許運転,酒酔い運転等をした者以外の者を反則者として,警察本部長が反則者に対して行う通告に対し,反則者が反則金を期日までに納付することによって,成人の反則者は公訴を提起されず,少年の反則者は家庭裁判所の審判に付されないこととする制度である。
 この制度の導入により,反則者による反則行為に対しては,それまでの交通切符(通称「赤切符」)に代わって,反則切符(通称「青切符」)が使用されることとなり,交通切符は,以後,非反則行為に対して使用されることとなった。反則切符は,交通反則告知書・免許証保管証,交通事件原票,交通反則通告書,取締り原票,告知報告書・交通法令違反事件簿等から構成されており,複写式で迅速な作成と処理が可能になっている。
 交通反則通告制度導入の効果は顕著であった。検察庁における道路交通法違反新規受理人員が,昭和42年には約457万人に達していたのが,43年には約282万人に,44年には約144万人にまで激減した。同制度は,導入当初は成人に対してのみ適用されていたが,45年8月20日からは少年にも適用されることとされた。また,62年4月1日施行の同法の改正によって,反則者と反則行為の範囲がそれぞれ拡大され,同制度の適用範囲が拡大された。
 なお,車両等の運転者による道路交通法違反の取締件数に占める反則告知件数の割合は,昭和62年以降毎年90%前後に達しており,平成4年においては87.8%であった。また,反則金の納付率は,交通反則通告制度発足以後平成3年まで,95.0%ないし97.1%の高率で推移している。