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 平成 5年版 犯罪白書 第3編/第3章/第1節 

第3章 薬物犯罪

第1節 いわゆる麻薬二法の施行

 我が国における覚せい剤事犯は,ここ2,3年,若干の上昇ないし横ばいの傾向を示し,麻薬等事犯(麻薬取締法違反,あへん法違反及び大麻取締法違反をいう。)は,あへん法違反を除いて引き続き増加の傾向を示している(第1編第1章第2節2(2)参照)。
 こうした背景から,新たに向精神薬を取締りの対象とするため,麻薬取締法が一部改正され,「麻薬及び向精神薬取締法」が平成2年8月25日から施行された。また,麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約等委国内的に実施するため,いわゆる麻薬二法,すなわち「麻薬及び向精神薬取締法等の一部を改正する法律」及び「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(以下「麻薬特例法」という。)が制定され,4年7月1日から施行された。このいわゆる麻薬二法により,麻薬や向精神薬の原材料物質に関する規制が強化されたほか,次のとおり,コントロールド・デリバリー(監視付移転)の導入,マネー・ローンダリング(不法収益等隠匿)等の処罰などに関する規定が設けられ,新たな捜査手法の導入及び規制薬物に係る不正行為を助長する行為等を防止するための措置が採られた。
コントロールド・デリバリー
 捜査手法の一種であり,[1]入国審査官は,本邦への上陸を申請する外国人が規制薬物を所持する疑いがあることが判明した場合であっても,法務大臣から,薬物犯罪の捜査に関し,当該外国人の上陸が必要である旨の検察官からの通報又は司法警察職員からの要請があり,かつ,規制薬物の散逸及び当該外国人の逃走を防止するための十分な監視体制が確保されていると認められる旨の連絡を受けているときは,当該外国人の上陸を許可することができること(麻薬特例法3条),及び[2]税関長は,本邦から輸出し,又は本邦に輸入しようとする貨物等に規制薬物が隠匿されていることが判明した場合であっても,薬物犯罪の捜査に関し,当該規制薬物が外国に向けて送り出され,又は本邦に引き取られることが必要である旨の検察官又は司法警察職員からの要請があり,かつ,当該規制薬物の散逸を防止するための十分な監視体制が確保されていると認めるときは,当該貨物等を通関させることができること(同法4条)とし,その後の当該外国人又は貨物等の移動状況に対応して,必要な捜査手段を講ずることができるようにするものである。
マネー・ローンダリング等の処罰
 麻薬特例法により新たに処罰の対象とされた行為は,次のとおりである(主要なもののみ)。
 [1] 規制薬物等の輸入,輸出,製造,製剤,小分け,譲渡し,譲受け,交付,栽培等の罪に当たる行為を業とすること(8条:業として行う不法輸入等の罪)
 [2] 不法収益等の取得若しくは処分について事実を仮装し,又は不法収益等を隠匿すること(9条:不法収益等隠匿の罪)
 [3]情を知って,不法収益等を収受すること(10条:不法収益等収受の罪)
 平成4年において麻薬特例法4条のコントロールド・デリバリーを活用して検挙した事犯は,[1]コロンビア人ほか3人が空路を利用しコカイン約278gを,[2]台湾人ほか2人が海路を利用して覚せい剤約110kgを,[3]イラン人1人が空路を利用してあへん約174gを,それぞれ密輸入しようとしたものである。
 このほか,麻薬特例法8条による検挙事犯が1件ある。これは,覚せい剤の密売を業としている者を検挙したものである。
 いわゆる麻薬二法は,施行されて日が浅く,適用例こそ少ないものの,国際的な協力を一層推進しつつ,同法が積極的に活用されることに期待が寄せられている。