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 平成 4年版 犯罪白書 第4編/第3章/第3節 

第3節 婦人補導院における処遇

 我が国における売春関係の取締り経過を見ると,明治33年制定の娼妓取締規則及び41年制定の警察犯処罰令により,いわゆる公娼制度の容認と私娼等の禁止が,第二次大戦終了まで続けられた。その後,昭和21年の娼妓取締規則の廃止及び22年の「婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令」の公布により,公娼制度が禁止され,婦女を困惑させて売淫させたり,売淫させる契約をする行為が処罰されることとなった。しかし,警察犯処罰令が23年の軽犯罪法施行に伴い廃止されたため,単純な売春行為自体を処罰する法律が存在しないこととなった。以後,従来の公娼地区をいわゆる赤線地区として容認する結果となり,効果的な取締りができない状況が続いていた。
 このような事態に対して,性道徳と善良な風俗の維持や女性保護などを図ることを求める世論が高まり,昭和32年4月1日,総合的な売春対策立法である売春防止法が施行され,同法附則2項により,「婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令」が廃止された。さらに,売春防止法の一部改正により,33年4月1日から,同法5条の「勧誘等(売春をする目的で,公衆の目に触れるような方法で勧誘若しくは客待ちし,又は勧誘するため公共の場所でつきま,とうなどの行為)」を行った20歳以上の女子が起訴されて有罪となり,裁判所がこの者に対する自由刑の執行を猶予する場合には,補導処分に付し得ることとした。
 これと同時に婦人補導院法が制定され,上記補導処分に付された成人の女子を収容し,その更生のために必要な補導を行う施設として,東京,大阪及び福岡に合計3庁の婦人補導院が設置されたが,収容人員の減少等のため,平成3年末では,東京に1庁となっている。

IV-18図 婦人補導院新収容人員及び売春防止法違反のうち「勧誘等」の人員の推移

 IV-18図は,婦人補導院の新収容人員及び売春防止法違反のうち「勧誘等」の検察庁への送致人員(昭和40年までは検挙人員)の推移を表わしたものである。平成3年の新収容人員は2人,「勧誘等」の人員は388人である。
 婦人補導院の収容期間は6か月を限度とし,在院者の処遇に当たっては,規律ある,明るく開放的な環境の下で,指導職員との人間的触れ合いを深めながら,在院者個々の特性に応じた指導を行うこととしている。具体的には,売春に対する価値観と態度の変容を目標として,視聴覚教材を利用した指導及び個別面接を行っているほか,編み物,裁縫,炊事,洗濯,園芸作業などを通じて,日常生活の生活技術の習得や勤労意欲の喚起を図り,生け花や絵画などによる情操面の指導を行い,さらには,婦人相談センターの相談員による保護相談,院外の公共施設の利用や施設見学などを通じて,社会適応性を高めるよう工夫している。医療では,更生の妨げとならないよう,特に性病の治療に重点を置いている。また,社会復帰のための諸施策については,退院又は仮退院後の帰住先の環境に恵まれない者が多いので,関係機関との連携を十分に保ちながら推進している。