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 平成 4年版 犯罪白書  

はしがき

 現在は,「持続可能な開発」という時代のキーワードに象徴されるとおり,人類が自然環境の保護という重い課題を突き付けられるに至った時代である。それは,我が国が,明治以来,殖産興業の名のもと追い求めてきた効率的な生産第一主義に対する見直しを迫るものであると同時に,外国が非関税障壁などとして指摘する日本型管理社会からの脱皮,異質な社会との協調を求めるものである。
 従来,女子は社会の主導的役割を演ずることが少なかったものの,それは見方を変えれば管理社会の枠外でこれらにとらわれない新鮮で多様な生き方・考え方をしてきたということでもある。およそ30年前,女子大生亡国論がマスコミをにぎわせたが,今や女子大生興国論さえ聞かれるようになったのは,いわゆる男女雇用機会均等法施行後,働く女子の数が男子の2倍近い伸びを示すなど女子の社会進出に顕著なものがあることや,このような時代の要請によるものであろう。
 ところで,女子と犯罪の関係を見ると,女子の交通関係業過を除く刑法犯検挙人員は,戦争直後は全体の約8%を占めるにすぎなかったものが昭和38年には10%を超えるまで増加を続け,更に63年には20%に達して現在までその水準を維持しており,矯正施設収容人員及び保護観察人員に占める女子の比率も上昇傾向を示すなど今後の成行きには必ずしも楽観を許さないものがある。
 女子の犯罪とはいっても,その態様,動機,背景的事情は様々であって,罪種別に見ても,少年成人別に見ても,その動向は必ずしも一様ではない上に,男子の犯罪と比較しても,質的にかなりの差異を示している。このような女子の犯罪について,その増加の原因を直ちに女子の社会進出という社会現象に結び付けることは短絡的にすぎるといわなければならないが,「女の時代」の到来を機に,これまで圧倒的多数を占める男子の犯罪の陰に隠れて光を当てられることが少なかった女子犯罪の問題に焦点を絞り,効果的な犯罪防止及び犯罪者処遇の方策を検討するための資料を提供することは,十分意義のあることと思われる。
 そこで,本白書では,平成3年を中心とした最近における犯罪の動向と犯罪者処遇の実情を概観するとともに,特集として「女子と犯罪」を取り上げ,我が国の女子犯罪の動向及び女子犯罪者処遇の実情等を調査・報告し,女子犯罪の防止のために有効適切な対策を講じる上で役に立つ資料を提供しようと試みた。
 この白書が,犯罪の予防と犯罪者処遇の進展にいささかでも寄与することができれば幸いである。
 終わりに,本白書を作成するに当たっては,最高裁判所事務総局,警察庁,外務省,厚生省その他の関係機関から多大の協力と援助を受けた。ここに厚く謝意を表する次第である。
平成4年10月
亀 山  継 夫 法務総合研究所長