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 平成 3年版 犯罪白書 第4編/第4章/第4節/2 

2 罪名別に見た高年群受刑者の特質と意識

(1) 性行等
 IV-37表は,50歳以上の高年群受刑者のもつ性行等につき,初入・再入者別,罪名別に,その総数に占める構成比を見たものである。ここでいう性行等とは,「受刑者の実態調査」の結果から取り上げたもので,「初発被検挙年齢」については,20歳未満で被検挙歴があった者を,「暴力団加入歴」,「アルコール依存」,「ギャンブル癖」及び「覚せい剤依存」については,それぞれそのような経験やし癖歴を有する者を,「家族関係不良」については,同調査中の「家族との関係」において,択一評定で「家族の困り者」,「家族から既に見放されている」,「一家離散」又は「天涯孤独」とされた者をいう。

IV-66図 新受刑者の初入・再入,罪名,年齢層別構成比(平成2年)

IV-37表 高年群受刑者の初入・再入,罪名,性行等別構成比

 性行等につき,罪名別に初入者と再入者の比較を行うと,窃盗,詐欺及び覚せい剤取締法違反の各受刑者では,性行等のすべてにおいて,構成比は再入者の方が初入者よりも高くなっている。特に,窃盗受刑者では,再入者は初入者に比及て,家族との関係が不良で,20歳未満で被検挙歴を有し,ギャンブル癖のある者が多くなっている。詐欺受刑者では,再入者は初入者に比して,窃盗受刑者と同様の問題性を強く有しているのに加えて,アルコール依存のある者,暴力団加入歴のある者も多くなっている。また,覚せい剤取締法違反受刑者では,覚せい剤依存,暴力団加入歴及び20歳未満で被検挙歴を有する者の構成比が再入者の中でも最高となっている。
 IV-67図は,50歳以上の高年群初入者について,上記構成比を罪名別に比較しやすいように作図したもので,基線の横軸は,総数の構成比の値の位置に取ってあり,したがって,グラフの正の方向は性行等に問題性が大きい(それぞれの罪名における構成比が総数の構成比より高い)ことを,負の方向は性行等に問題性が小さい(それぞれの罪名なこおける構成比が総数の構成比より低い)ことを意味している。

IV-67図 高年群初入者の罪名,性行等別構成比の比較

 50歳以上の高年群初入者において,性行等に問題罪名は過てあり,次いで道路交通法違反となるが,後者ではよアルコール依存の問題性が6罪名中で最も顕著に認められる。窃盗では,家族との関係において6罪名中で最も大きな問題性を示し,初発被検挙年齢,アルコール依存及びギャンブル癖にも問題性が認められる。覚せい剤取締法違反では,覚せい剤依存に問題性があると同時に暴力団加入歴のある者の構成比が6罪名中で最も高くなっている。殺人では,家族との関係及びアルコール依存に問題性が見られるが覚せい剤との関連は認められない。詐欺では,大きな問題性を示すものは少なく,ギャンブル癖と家族との関係に幾分の問題性が認められるものの,アルコール依存及び覚せい剤依存の問題性は小さくなっている。

IV-68図 高年群受刑者の初入・再入,罪名,性行等別構成比の比較

 さて,IV-68図は,以上に述べた50歳以上の高年群受刑者における性行等と初入・再入者別及び罪名別との関係が相対的に比較できるように作成したものである。図において,単位は構成比であり,放射状の軸上に表示される点の位置が中心から離れるほど,その問題性が大きくなっていることを示している。まず,図の[1]により,高年群初入者の殺人,業過及び道路交通法違反について見ると,いずれも顕著に突出している問題性は認められないが,3罪名中では相対的に殺人では家族との関係に,また,道路交通法違反ではアルコール依存に問題のあること,業過ではアルコール依存にやや問題はあるが総じて性行等の問題性は大きくないことなどが分かる。図の[2],[3]及び[4]は,それぞれ,窃盗,詐欺及び覚せい剤取締法違反につき,初入者と再大者を同じ軸上に併せて示してあり,これらの図形を,同じ軸上で,あるいは,図形間で相互に比較することによって,罪名による特徴,初入者と再入者による差がとらえられる。
(2) 受刑に至った理由
 IV-38表は,50歳以上の高年群受刑者につき,初入・再入者別,罪名別に,受刑に至った理由を受刑者自身がどのように意識しているかを見たものである。受刑に至った理由に関する意識について,罪名別に初入者と再入省の比較を行うと,窃盗受刑者では,概して,初入者と再入者との間の構成比に大きな差はなく,アルコール依存,職場の人間関係の失敗,家族関係不良などを理由とする者は,かえって初入者の方が再入者よりも多くなっている。詐欺では,ほとんどすべての構成比で,再大者の方が初入者よりも高く,特に,自暴自棄,怠惰・遊興習慣及び職場の人間関係の失敗を理由とする者が多くなっている。覚せい剤取締法違反では,受刑に至った理由を初入者と再大者でやや異なって意識しており,再入者では,経済的困窮,怠惰・遊興習慣,かけ事及び暴力団加入などで構成比が初入者よりも高く,初入者では異性関係の失敗,自暴自棄及び悪い仲間の誘惑などで構成比が再入者よりも高くなっている。

IV-38表 高年群受刑者の初入・再入,罪名,受刑に至った理由に関する意識別構成比

 IV-69図は,IV-38表に基づき,高年群初入受刑者について,前項で解説したとおりの方法で,罪名別に意識の差を比較しやすいように作成したものである。なお,この意識に関する質問への回答は重複選択方式でなされている。
 50歳以上の高年群初入者について,受刑に至った理由に関する意識を罪名別に比較すると,受刑の理由として意識される項目の構成比が6罪名中で最も低い罪名は業過であり,業過受刑者が他の罪名の受刑者に比して,本件犯行前の生活状況は安定していたことがうかがえる。次いで,道路交通法違反の受刑者も比較的業過受刑者に近い構成比を示しているが,アルコール依存を受刑の理由と意識する者の構成比が高い。窃盗受刑者は,6罪名中で本件犯行前の生活状況が最も不安定であり,経済的困窮,自暴自棄,アルコール依存,怠惰・遊興習慣,職場の人間関係の失敗及びかけ事を受刑の理由と意識する者の比率は6罪名中で最も高くなっている。覚せい剤取締法違反の受刑者では,経済的困窮やアルコール依存を受刑の理由と意識する者は少ない一方で,覚せい剤依存,悪い仲間の誘惑及び異性関係の失敗を受刑の理由として意識する者の構成比は,6罪名中で最も高くなっている。殺人受刑者における意識にも特徴があり,自暴自棄,家族との折合い不良及び報復を受刑の理由と意識する者の比率は6罪名中で最も高くなっており,異性関係の失敗を意識する者の比率も高くなっている。詐欺受刑者での特徴は,「にだまされて」を受刑の理由とする者の比率が6罪名中で最も高く,人にだまされて経済的困窮に陥り,やむなく詐欺を敢行するに至ったと意識する者が多いことを示している。

IV-69図 高年群初入者の罪名,受刑に至った理由に関する意識別構成比の比較

(3) 罪の償いに関する意識
 IV-39表は,50歳以上の高年群受刑者につき,初入・再入者別,罪名別に,罪の償いに関する意識を見たものである。これによると,高年群受刑者に関する限り,窃盗,詐欺及び覚せい剤取締法違反における初入者と再入者の意識別構成比には大きな差は認められないが,罪の償いに関する意識と更生意欲を反映していると考えられる「被害の賠償だけでなく更生する必要がある」と回答した高年群初入者の比率は,詐欺が最も高く90.3%を占め,次いで,殺人(72.1%),窃盗(71.4%),業過(67.7%)となっており,道路交通法違反及び覚せい剤取締法違反での比率は低く,それぞれ54.4%,48.4%にすぎない。

IV-39表 高年群受刑者の初入・再入,罪名,罪の償いに関する意識別構成比

(4) 自己意識
 IV-40表は,本章第3節で解説し牟50歳以上の高年群受刑者の自己意識につき,主要なもの8種を取り上げ,初入・再入者別,罪名別の構成比を見たものである。自己意識については,便宜上,質問の内容から次のように名付けた。すなわち,[1]「世の中は結局金だけが頼りだ」を対人不信感,[2]「今から人生をやり直すのは難しい」を自信喪失感,[3]「世の中には自分しか信じるものがない」を孤立無援感,[4]「毎日の生活の中で寂しいと思う」を寂りょう感,[5]「自分の性格が嫌になる]を自己嫌悪感,[6]「自分は世の中から取り残されている」を落ご感,[7]「自分は何をやっても駄目な人間だ」を無力感,及び[8]「自分だけが悪く思われている」を被害感とした。なお,構成比は,上記の自己意識が「よくある」とした者の各罪名別の総数に占める比率であり,また,ここでの分析は,高年群受刑者の罪名別における相対比較に基づくものである。
 50歳以上の高年群受刑者の自己意識を初入者と再入者で比較すると,詐欺において両者の差が最も顕著で,再入者はすべての自己意識において,不適応感が初入者よりも強い。詐欺受刑者において,再入者では無銭飲食等の簡単な手口を用いる者が多いのに対して,初入者には高等な手口を用いる者が相当数含まれていることと関連があろう。窃盗では,自信喪失感を除いて再入省はすべての自己意識で初入者よりも不適応感が強く,覚せい剤取締法違反では,自己嫌悪感と無力感を除いて再入者はすべての自己意識で初入者よりも不適応感が強い。

IV-40表 高年群受刑者の初入・再入,罪名,自己意識の内容別構成比

 IV-70図は,IV-40表に基づき,50歳以上の高年群初入者について,前項で解説したのと同様の方法で,罪名別に自己意識の差が比較しゃすいように作成したものである。グラフの正の方向は自己意識において不適応感をもつ傾向が大であるごとを,負の方向は同傾向が小であることを意味している。
 高年群初入者の自己意識について,罪名別に比較すると,業過と道路交通法違反の受刑者では,すべての項目で相対的に不適応感が低くなっている。また,詐欺でも被害感及び落ご感がやや認められるものの自信喪失感や寂りよう感はそれほど強くない。これに対して,窃盗受刑者においては,対人不信感,自信喪失感,寂りょう感,自己嫌悪感,落ご感及び被害感の構成比がいずれも6罪名中で最も高く,不適応感が強いといえる。殺人受刑者における自己意識でも全般に不適応感は強いが,窃盗受刑者に比べると,無力感はより強いが被害感,自己嫌悪感及び対人不信感はそれほど強くはない。覚せい剤取締法違反の受刑者では,自己嫌悪感,寂りょう感及び孤立無援感は強いが自信喪失感はさほど強くはない。

IV-70図 高年群初入者の罪名,自己意識の内容別構成比の比較

IV-71図 高年群受刑者の初入・再入,罪名,自己意識の内容別構成比の比較

 IV-71図は,以上に述べた50歳以上の高年群受刑者における自己意識と初入・再入者別及び罪名別との関係を,先に解説したのと同様に,相対的に比較して見られるように作成したものであり,それぞれの図形を比較することによって初入・再入者別及び罪名別の特徴がとらえられる。