前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成 3年版 犯罪白書 第4編/第4章/第1節/2 

2 年齢層別受刑者の特質

(1) 男女別
 IV-38図は,昭和41年以降における新受刑者の年齢層別構成比の推移を男女別に見たものである。41年と平成2年の構成比を比較すると,40代,50代及び60歳以上では,男女共に,その構成比が上昇しており,上昇の程度を見ると,40代及び50代では男子の方が,60歳以上では女子の方が上昇の程度が大きい。

IV-21表 年末在所受刑者の年齢層別人員(昭和41年〜平成2年各12月31日現在)

IV-37図 年末在所受刑者の年齢層別構成比の推移(昭和41年〜平成2年各12月31日現在)

(2) 罪名別
 IV-22表は,平成2年における新受刑者の罪名を年齢層別及び初入・再入別に見て,それぞれ第1位から第5位まで挙げたものである。これによって,年齢層及び初入・再入別で罪名の順位が異なることが分かるが,特に,60歳以上の高齢新受刑者において,再入者では,窃盗,詐欺,覚せい剤取締法違反の,初入者では,道路交通法違反,殺人,詐欺の順位が高くなっている。
 IV-39図は,高齢新受刑者で順位の高い7罪名,すなわち,窃盗,詐欺,殺人,傷害,業過,覚せい剤取締法違反及び道路交通法違反につき,昭和41年以降の年齢層別構成比の推移を見たものである。
ア 窃  盗
 窃盗について,昭和41年から平成2年までの年齢層別構成比の推移を見ると,40歳以上の中高年齢層でほぼ一貫して上昇傾向を示しているのに対して,20代は,下降後横ばい,30代は,いったん上昇後下降の傾向を示しており,2年における中高年齢層の構成比は,合わせて51.0%と半数を超え,同年における新受刑者の中高年齢層の構成比47.7%を上回っている。

IV-38図 新受刑者の男女・年齢層別構成比の推移(昭和41年〜平成2年)

IV-22表 新受刑者の年齢層,初入・再大別罪名構成比の順位(平成2年)

イ 詐  欺
 詐欺は,年次により多少の起伏はあるものの,総じて40歳以上の中高年齢層で上昇しているのに対して,20代は下降後横ばい,30代は横ばい後下降へと推移しており,窃盗と比較すると,詐欺新受刑者に占める中高年齢層の比率はかなり高く,平成2年において67.5%に達している。
ウ 殺  人
 殺人については,実数が少ないために各年齢層において年次による起伏がかなり認められるものの,昭和41年と平成2年で年齢層別構成比を比較して見ると,40代,50代及び60歳以上でそれぞれ上昇し,20代では大幅に下降,30代ではほぼ同一比率である。2年における殺人新受刑者に占める40歳以上の中高年齢層の比率は,52.7%と半数を超えている。
エ 傷  害
 傷害については,年次により多少の起伏はあるが,総じて40歳以上の中高年齢層で構成比が上昇している。しかし,窃盗新受刑者の年齢層別構成比と比較すると,50代及び60歳以上の構成比はかなり低く,平成2年における傷害新受刑者に占める40歳以上の中高年齢層の構成比は38.5%にとどまっている。
オ 業  過
 業過についても,やはり40歳以上の中高年齢層での構成比の上昇傾向がほぼ一貫して見られるが,これは,傷害新受刑者の中高年齢層構成比より低く,平成2年において30.2%にとどまっている。
カ 覚せい剤取締法違反
 覚せい剤取締法違反についても,40歳以上の中高年齢層での構成比の上昇傾向が見られ,平成2年においては47.0%となっている。中高年齢層のうちでは,40代及び50代での上昇率がかなり高く,60歳以上での上昇の程度はいまだ高くない。

IV-39図 新受刑者の罪名・年齢層別構成比の推移

キ 道路交通法違反
 道路交通法違反についても,40歳以上の中高年齢層での上昇傾向が見られ,平成2年において,その構成比は51.8%に達しており,詐欺及び殺人に次いで高い。
 最後に,受刑者入所調査票に基づく調査により,60歳以上の高齢新受刑者の罪名別人員及び各罪名における最高年齢を昭和63年以降の3年間で示したのがIV-23表である。これによって罪名別の最高年齢を3年間で見ると,窃盗の87歳,詐欺及び殺人の84歳,道路交通法違反の81歳などとなっている。
(3) 刑名・刑期
 IV-24表は,受刑者入所調査票に基づく調査により,昭和52年,57年及び62年以降における新受刑者の刑名別構成比の推移を初入・再大別及び年齢層別に見たものである。刑名別に見ると,年次,初入・再入別,年齢層別を問わず,総数に占める懲役刑の比率が圧倒的に高く,禁錮刑については,各年次,各年齢層を通じ,再入者に比して初入者の比率が高くなっている。
 IV-25表は,平成2年における新受刑者中の懲役受刑者について,初入・再入別及び年齢層別に刑期別構成比を示したものである。これによって50歳以上の受刑者について見ると,6月以下の構成比では,50代,60歳以上共に,初入者の方が再入者よりも高いこと,再入者では,50代,60歳以上共に,1年を超え2年以下の刑期の者で4割強を占めること,5年を超える有期懲役の構成比は,50代,60歳以上共に,初入者の方が再入省よりも高いこと,また,無期懲役の構成比でも,50代,60歳以上共に,初入者の方が再大者よりも高いことなどが分かる。

IV-23表 高齢新受刑者の主要罪名別人員及び最高年齢(昭和63年〜平成2年)

(4) 初入・再入別
 IV-40図は,昭和41年以降における新受刑者の初入・再入別構成比の推移を男女別及び年齢層別に見たものである。まず,男子については,20代では,初入者が過半数を占めるのに対して,30代を境に,再入者の占める率が初入者のそれを上回り,年齢層が上がるに従って再入者の占める率は高くなる。平成2年における再入者の構成比は,60歳以上が最も高く(85.2%),次いで,50代(79.1%),40代(75.2%),30代(65.5%),20代(35.9%)の順となっている。

IV-24表 新受刑者の初入・再入,年齢層,刑名別人員[1] 初 入 者            (昭和52年,57年,62年〜平成2年)

IV-25表 新受刑者中の懲役受刑者の初入・再入,年齢層,刑期別構成比(平成2年)

 次に,女子については,20代では,初入者が各年とも再入者を上回り,50代と60歳以上では,ほぼ各年とも再入者が初入者を上回っているが,30代及び40代は一定していない。女子では,男子に比べて年次により,初入者と再入者の占める比率の変動が大きいが,おおむね各年齢層において男子よりも再入者の占める率は低い。他方,年齢が高くなるに従って再入者の構成比が上昇するのは男子と同様である。平成2年における再人者の構成比は,60歳以上が最も高く(86.3%),次いで,50代(69.5%),40代(59.2%),30代(41.8%),20代(24.6%)の順となっている。
(5) 休養患者
 IV-41図は,休養患者(医師の診療を受けた被収容者のうち医療上の必要により病室又はこれに代わる居室に収容されて治療を受けた者をいう。)について,統計資料でさかのぼれる昭和46年以降における年齢層別構成比の推移を示したものである。休養患者数の年齢層別構成比を46年と平成2年で対比して見ると,40代,50代及び60歳以上が上昇しているのに対して20代及び30代は下降している。なお,年齢層別休養患者数の推移を実数で見ても,上記の期間に,40代で約1.6倍,50代で約2.5倍,60歳以上で約2.0倍に増加しているのに対して,20代では約3分の1に,30代でも約6割弱に減少しており,中高年齢層での休養患者が増加していることが分かる。
(6) 死亡受刑者
 IV-26表は,統計資料でさかのぼれる昭和46年以降における男女別,年齢層別の死亡受刑者数の推移を見たものである。年次による変動が大きいが,既に述べたとおり,受刑者の年齢層別構成比が40歳以上の中高年齢層で上昇していることを反映して死亡受刑者も中高年齢層において漸増の傾向が認められる。平成2年における死亡受刑者総数の年齢層別構成比は,70歳以上が11%,60代が15%,50代が41%,40代が20%,30代が6%,20代が7%となっている。
 死因のほとんどは疾病である。受刑者が重とくな疾病にり患し,身柄引受人がいない等の理由により刑執行停止ができない場合には,医療刑務所又は医療センターに収容されて通常の病院と同様の治療を受ける。上記の死亡者もこれらの医療刑務所又は医療センターにおいて病死した者がほとんどである。
 IV-27表は,昭和46年から5年ごとと61年以降について,女子受刑者の死亡者数は僅少であるため除外し,男子受刑者の死亡率(各年における男子年末在所受刑者数1,000人当たりの男子死亡受刑者数)を年齢層別に,また,総務庁統計局の人口資料及び厚生省の人口動態統計に基づき算出した平成元年における男子日本人の死亡率を,不慮の事故(交通事故,墜落,窒息等)を含む場合と除いた場合について,それぞれ年齢層別に示したものである。
 これによると,年齢層別の男子受刑者死亡率は,おおむね不慮の事故を除いた場合の男子日本人の年齢層別死亡率を下回っているものの,男子受刑者総数の死亡率は,昭和46年が1.25であったものが平成2年では2.54と上昇していることが分かる。この背景としては,行刑施設における医療体制が強化されつつある中にあって,40歳以上の中高年齢受刑者の構成比が上昇しつつあること,胃がんや大腸がんなどの悪性新生物,糖尿病,肝硬変などに代表される成人病が多く見られるようになったことなどが考えられ,これらの状況への対応策を今後一層充実させる必要があろう。

IV-40図 新受刑者の男女,年齢層,初入・再入別構成比の推移(昭和41年〜平成2年)

IV-41図 休養患者の年齢層別構成比の推移(昭和46年〜平成2年)

IV-26表 死亡受刑者の男女・年齢層別人員(昭和46年〜平成2年)

IV-27表 男子受刑者及び男子日本人の死亡率(昭和46年,51年,56年,61年〜平成2年)

IV-42図 新受刑者中の暴力組織加入者の年齢層別構成比の推移(昭和41年〜平成2年)

(7) 暴力組織加入者
 IV-42図は,新受刑者中暴力組織加入者の年齢層別構成比の推移を昭和41年以降について見たものである。暴力組織加入者の構成比は,60歳以上では微々たる比率にとどまっているものの,40代がほぼ一貫して上昇し,50代がやや下降後上昇している。
(8) 出所時の帰住先
 IV-43図は,受刑者出所調査票に基づく調査により,平成2年における出所受刑者の主要な帰住先別構成比を初入・再入別,年齢層別に見たものである。これによると,再入者に比して初入者は,50代を除いて,どの年齢層においても父母のもとに帰住する者の率が高いこと,30歳以上ではどの年齢層においても配偶者及び兄弟・姉妹・その他の親族のもとに帰住する者の率が高いこと,一方,更生保護会への帰住率は,どの年齢層においても再入者の方が初入者よりも高いことが認められ,再入者の帰住条件の厳しいことが分かる。また,年齢層別構成比の数値の比較から,初入者,再入者のいずれも,年齢が高くなるに従って,帰住条件が難しくなることもうかがえる。

IV-43図 出所受刑者の年齢層,初入・再入,出所時帰住先別構成比(平成2年)

 次に,IV-44図は,更生保護会への帰住者について,昭和52年以降における出所受刑者の初入・再入別り及び年齢層別構成比の推移を示したものである。更生保護会へ帰住する者を初入・再入別に見ると,年次を通じて再入者に占める40歳以上の中高年齢層の構成比が初入者のそれに比して高くなっており,初入者,再入者のいずれにおいても,総じて,中高年齢層受刑者の更生保護会への帰住者の比率が上がっていることが分かる。

IV-44図 出所受刑者中の帰住先が更生保護会である者の初入・再入,年齢層別構成比の推移(昭和52年〜平成2年)