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 平成 3年版 犯罪白書 第1編/第2章/第1節/1 

第2章 各種犯罪と犯罪者

第1節 薬物犯罪

1 概  説

 I-19表は,昭和26年以降における毒物及び劇物取締法違反を除く薬物事犯の警察等による検挙状況を示したものであり,これに基づき作成したのがI-18図である。戦後の我が国における薬物事犯の推移について見ると,三つの顕著な流行期が認められる。第一期は,29年を頂点とする覚せい剤取締法違反(以下「覚せい剤事犯」という。)の激増期である。覚せい剤事犯は,第二次大戦後の混乱した社会情勢を背景に急速に増加し,29年には検挙件数5万3,221件,検挙人員5万5,664人を数えるに至ったが,法改正による罰則の強化,徹底した検挙と適正な処理,中毒者に対する入院措置の導入,覚せい剤の有害性に関する啓発活動の効果などによって,急激に減少し,鎮静化した。第二期は,ヘロインを中心とする麻薬取締法(平成2年8月25日施行の同法の一部改正により「麻薬及び向精神薬取締法」と改められた。)違反の増加であり,昭和38年には検挙件数2,135件,検挙人員2,571人を数えるに至ったが,38年の法改正による罰則の強化等の対策が効を奏し,39年以降急速に減少した。第三期は,45年以降の覚せい剤事犯の再度の激増期であり,覚せい剤の第二の流行期とも呼ばれる。現在も引き続き高い数値を示しているが,その要因としては,主たる供給源が海外にあり,大規模かつ組織的な密輸入が行われていること,覚せい剤の取引を重要な資金源とする暴力団が,密輸入,密売組織等の流通ルートを支配し,利得増大のため濫用者の拡大を図っていること,近年における享楽的な社会風潮が,一般国民の薬物に対する警戒心を薄れさせ,覚せい剤が刺激を求める人々の安易な興味の対象となっていることなどが挙げられる。他方,最近においては,覚せい剤以外にも,ヘロイン,コカイン,LSD及び大麻など多様な薬物が濫用される兆候もうかがわれ,薬物事犯の今後の動向が注目される。

I-19表 薬物事犯の検挙状況(昭和26年〜平成2年)

I-10図 薬物事犯検挙人員の推移(昭和26年〜平成2年)