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 平成 2年版 犯罪白書 第1編/第3章/第3節/2 

2 自動車損害賠償保障法

 この法律は,自動車の運行によって,人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより,被害者の保護を図ることなどを目的としており,この法律による自動車損害賠償保障制度は犯罪被害者救済制度の一環としてとらえることができる。
 この法律による自動車損害賠償保障制度の中核は,自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)及び自動車損害賠償責任共済(以下「自賠責共済」という。)である。その制度の骨子は,[1]自動車の運行供用者に,運行上生じた人身加害についての損害賠償責任を無過失責任に近い形で負わせ,[2]自動車保有者には,損害保険会社との間で自賠責保険契約を締結するか,農業協同組合との間で自賠責共済契約を締結することを義務付け,[3]人身事故が発生した場合は,死亡による損害で最高2,500万円,傷害による損害又は死亡に至るまでの傷害による損害で最高120万円,後遺障害による損害で最高2,500万円が,自賠責保険又は自賠責共済から支払われ,[4]被害者は保険会社等に対して直接請求もでき,[5]これらの保険等に関しては,政府が再保険者として,保険会社又は農業協同組合の負担する保険等責任を再保険(再保険額は,責任保険等の金額の6割)することにしており,[6]非営利事業として運用されているなどである。
 昭和63年度(会計年度)中における自賠責保険及び自賠責共済の支払状況はI-68表のとおりである。
 さらに,自賠責保険及び自賠責共済を補完するものとして,政府の行う自動車損害賠償保障事業がある。これは,いわゆるひき逃げや無保険車による事故の場合,自賠責保険や自賠責共済では被害者が救済を受けられないため,政府が被害者に対して損害額をてん補するものであり,そのてん補の額は自賠責保険に準じている。総務庁の「交通事故の状況及び交通安全施策の現況」によって,昭和63年度(会計年度)の保障事業による保障金の支払状況を見ると,支払額は,ひき逃げ3,138件(87.1%)及び無保険466件(12.9%)に対し,約48億100万円(死亡174人に対し約28億2,900万円,傷害3,430人に対し約19億7,200万円)であり,死者1人当たり平均約1,626万円,負傷者1人当たり平均約57万円が支払われている。

I-68表 自賠責保険・共済支払状況(昭和63会計年度)