前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成 2年版 犯罪白書 第1編/第2章/第1節/3 

3 麻薬等の事犯

 我が国における麻薬取締法,あへん法,大麻取締法の各違反を総合して,その検挙状況について見ると,前掲I-19表に示すとおりである。平成元年においては,総数で検挙件数2,341件,検挙人員1,886人と,前年に比べて件数で74件(3.1%),人員で23人(1.2%)減少している。事犯別で特に注目されるのは,大麻取締法違反の動向であって,昭和52年以降1,000人台の検挙人員が続いており,,平成元年では,前年に比べて100人(6.4%)減少したとはいうものの,1,470人を数え,麻薬等の事犯全体の77.9%を占めている。また,麻薬取締法違反による検挙人員も248人となり,昭和50年以降で最大となった。

I-26表 麻薬等の押収量(昭和60年〜平成元年)

 I-26表は,最近5年間における麻薬等の押収量を示したものである。麻薬等の押収量は,年次による増減が著しいが,平成元年における押収量を見ると,前年に比べて,あへんを除き,いずれも大幅に増加している。すなわち,コカインが64.1倍,大麻が2.3倍,LSDが2.2倍,ヘロインが1.6倍となっており,コカインの激増が注目される。
 麻薬事犯を,厚生省薬務局及び警察庁保安部の資料によって違反法令別に見ると,次のとおりである。
 麻薬取締法違反の検挙人員は,前述のとおり(I-19表参照),昭和20年代から30年代前半にかけて,おおむね2,200人以下で増減を繰り返していたが,30年代後半になって増勢に移り,38年には検挙件数2,135件,検挙人員2,571人を数えた。しかし,38年の法改正による罰則の強化等の対策が効を奏し,39年以降検挙人員は急速に減少した。平成元年の検挙人員は,前年に比べて122人(96.8%)増加して248人となっている。違反態様別構成比では,平成元年においては,譲渡・譲受,所持,密輸入(出)の各事犯の順に多く,それぞれ39.9%,31.9%,19.4%となっている。使用事犯は各年次共に少なく,元年は8.1%である。密製造事犯は,昭和57年に4人検挙されているが,その後検挙された者はいない。また,平成元年における主な違反品目別の検挙人員は,ヘロイン事犯が前年より49人増の98人,コカイン事犯が前年より53人増の96人,LSD事犯が前年より13人増の25人といずれも前年に比べて倍増している。
 このうち,特にコカインについては,押収量,検挙人員共に増加が著しく,警察官による検挙人員88人を違反態様別に見ると,密輸入が20.5%,所持,譲受,譲渡等が79.5%になっているなど,国内にまん延する兆しが現れていると認めざるを得ないこと,平成元年には,1件でそれぞれ1,290g(新東京国際空港),1万2,100g(神戸港)に及ぶ大量押収事例が見られること,また,既に多くの国でコカイン依存者の増加に悩んでおり,国際的にも大きな問題になっていることなどから,我が国でも今後のコカイン事犯のすう勢には厳重な警戒が必要である。
 あへん法違反の検挙人員は,昭和43年の1,148人を頂点として,その後,急速に減少し,44年以降は100人ないし400人台を上下しており,平成元年には,前年に比べて45人(21.1%)減少して168人となっている。違反態様別に見ると,そのほとんどが,観賞を目的としたけしの栽培事犯であり,元年では全体の91.1%(153人)を占めている。
 大麻取締法違反について見ると,検挙人員は,昭和52年に1,000人を超え,53年以降1,200人を超えているが,平成元年は,前年より100人(6.4%)減少して1,470人となっている。違反態様別の構成比では,元年においては,所持,譲渡・譲受,密輸入(出)の順に多く,それぞれ62.8%,27.7%,7.7%となっている。