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 平成 元年版 犯罪白書 第4編/第3章/第3節/5 

5 恩  赦

(1) 概  説
 恩赦には,政令恩赦と個別恩赦がある。政令恩赦には,大赦,減刑,復権の3種類があり,それぞれ政令で罪や刑の種類を定めて一律に行われる。個別恩赦には,特赦,減刑,刑の執行の免除,復権の4種類があり,あらかじめ本人の行状や社会の感情などを調査した上で個別に決定される。個別恩赦には,刑事政策的見地から常時的に行われる常時恩赦と政令恩赦が行われる際などに補充的に行われる特別基準恩赦とがある(第2編第4章第6節参照)。
 恩赦の機能として,[1]法律を画一的に適用することにより,具体的事案において妥当性を欠くに至った場合の是正,[2]事情の変更による裁判の事後変更,[3]有罪の言渡しを受けた者の事後の行状などに基づく,いわゆる刑事政策的な裁判の変更若しくは資格の回復等が指摘されているが,いずれにしても,恩赦は,行政権によって国家刑罰権を消滅させ,又はその効力を減少させるなどの重大な行為である。
(2) 恩赦制度の変遷
 恩赦の歴史は古く,遠く奈良時代にさかのぼることができるが,主として朝廷や幕府の慶弔に際して行われてきた。明治22年2月に発布された大日本帝国憲法は,「天皇ハ大赦特赦減刑及復権ヲ命ス」と定めて,恩赦を天皇の人権事項とした。戦前の運用状況を見ると,恩赦の中心は勅令恩赦(いわゆる一般恩赦)と特別基準恩赦であり,常時恩赦は極めて制限的に行われてきた。昭和22年5月現行憲法が制定されて,恩赦は内閣の権限となり,内閣がこれを決定し,天皇がこれを認証することによって行われるように改められるとともに,同年恩赦令(大正元年勅令23号)を廃止し,新たに恩赦法及び恩赦法施行規則が施行された。これは,個別恩赦について本人の出願を大幅に認め,刑事政策的色彩を強めたものである。24年5月に恩赦法及び同法施行規則の一部が改正され,恩赦の決定に民意と専門的意見を反映させるために,中央更生保護委員会(現在の中央更生保護審査会の前身)が設置された。
(3) 昭和時代の政令恩赦
 昭和における政令恩赦及び特別基準恩赦の実施状況は,IV-65表のとおりである。最近の実施状況を見ると,恩赦は行政権による裁判の効力の変更であるということを考慮して,その運用はかなり慎重に行われてきたことがうかがわれる。今般,昭和天皇の崩御に際会し,恩赦が実施されることとなったが,大赦令は31年12月の国際連合加盟恩赦,復権令は47年5月の沖縄復帰恩赦の際にそれぞれ実施されて以来のことである。
(4) 常時恩赦の処理状況
 昭和24年から63年までの常時恩赦の処理状況は,付表20表のとおりである。処理人員を見ると,30年代にはおおむね100人から200人程度であったが,40年代に入り起伏はあるものの増加し,44年に929人(うち,恩赦相当数852人),48年に692人(うち,恩赦相当数414人)を記録するが,その

IV-65表 昭和の政令恩赦及び特別基準恩赦

 後はおおむね減少傾向にある。最近の10年間を見ると,特赦及び減刑は極めて少なく,復権及び刑の執行の免除がほとんどであり,また,恩赦不相当事案(恩赦を行うべき理由がない旨の議決がなされた事案)が若干増えている。