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 平成 元年版 犯罪白書 第4編/第3章/第2節/3 

3 行刑における科学化の潮流

 受刑者の社会復帰と再犯を防止するには,個々の受刑者の資質や人格等を科学的に診断し,受刑者が罪を犯すに至った原因を解明して,それぞれの特性に応じた個別的な矯正処遇を施す必要がある。
 我が国における行刑処遇科学化の先駆けは,昭和2年市谷刑務所において精神医学者による最初の精神考査が実施されたことであるとされているが,その後,6年に制定された仮釈放審査規程には,審査事項として,遺伝,健康状態,精神状態(知能,感情及び意思)等の項目が掲げられた。8年制定の行刑累進処遇令には,「受刑者7個性及心身ノ状況ニ付テハ医学,心理学,教育学及社会学等其ノ判断ヲ為スニ必要ナル知識ヲ基礎トシテ調査スベシ」と規定され,部外から関係諸科学の専門家が参加する体制が採られ,受刑者処遇の科学化が図られた。日中戦争から第二次世界大戦に入ると,軍需構外作業の拡大に伴って作業能力適格者の分類と刑務事故予測のための人格考査が行われ,19年には「戦時収容者人格考査要領」が制定されるなど,受刑者に対する科学的知見の活用について進展がみられた。戦後は,科学的処遇の導入が一段と積極的に試みられ,21年にはまず精神障害受刑者を収容する北方刑務所(現城野医療刑務所)が新設されて施設特殊化の先駆けとなり,22年には医学,心理学,教育学等関係諸科学の専門委員からなる矯正科学審議会が設置されて処遇科学化の促進が図られた後,23年には受刑者分類調査要綱が制定されて,初めて科学的な分類が組織化され,受刑者の改善の難易,犯罪性,刑期,健康,年齢,性別等細部にわたり受刑者の分類基準を規定し,以後の分類制度発展の基礎となった。32年には,中野刑務所が分類処遇の推進と拡充を図るための分類センターとして,また,分類処遇のモデル施設として発足した。30年代半ばから,交通禁錮受刑者の急激な増加の状況の下で,処遇の個別化の考え方に立脚して開発・発展してきた開放的処遇が,36年豊橋刑務支所を皮切りに相次いで誕生した(第2編第3章第3節1の(3)参照)。一方,法務省では,受刑者の人格を的確に診断するために,独自に法務省式文章完成法(40年),法務省式人格目録(42年)などの人格診断テストを開発し,科学的測定の向上に努めてきた。このような経緯を経て,47年には「受刑者について科学的な分類調査並びにそれに基づく適切な収容と処遇」を行うことを目的とした受刑者分類規程が施行され,収容分類級,処遇分類級及び分類処遇の重点事項を定めたほか,全国8ブロックの基幹施設をそれぞれ分類センターに指定するなどして,従来の内容を一新するとともに全国的統一基準の下に処遇の個別化による社会復帰を目指す科学的処遇が一段と推進されること,となり,制度的に定着して現在に至っている(第2編第3章第3節1の(1)参照)。