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 昭和37年版 犯罪白書 第三編/第四章/二/1 

二 少年に対する保護観察

1 家庭裁判所で保護観察処分を受けた少年

 家庭裁判所は,送致を受けた非行少年に対して,保護処分の一つとして「保護観察に付する決定」を行なうことがある。この決定がなされると,その少年は保護観察官または保護司の保護観察を受けることになる。この場合の保護観察の期間は,少年が二〇歳に達するまでの期間であるが,その期間が二年に満たないときは,二年間まで延長されることになっている。
 家庭裁判所で保護観察処分に付された少年に対しても,遵守事項が定められ,少年はこれを守る義務があるが,その特別遵守事項は,保護観察所の長が家庭裁判所の意見をきいて定めることになっている。この特別遵守事項は,単なる禁止や制限などの消極的な規制にとどまらず,積極的な生活目標を与えることも考慮されているが,たとえ,遵守事項の違反があっても,他の保護観察の場合とちがって,それだけで保護観察を取り消して他の処分に変更することはできないとされている。
 保護観察をつづけている間に,本人が健全な社会の一員として更生し,もはや保護観察の必要がないと認められたときは,保護観察所の長の権限でこれを解除することができる。これに反して,保護観察中にその成績がかんばしくなく,保護者の正当な監督に服さなかったり,家庭に寄りつかなかったり,犯罪性のある人や不道徳の人と交わったりなどしたときは,保護観察所の長は家庭裁判所に通告する。この通告を受けた家庭裁判所は,あらたに審判を行ない,本人が二三歳をこえない期間内であらたな保護処分(保護観察または少年院送致)を言い渡すことができるとされている。家庭裁判所で保護観察処分に付された少年は,すみやかに保護観察所に出頭して保護観察の下に入らなければならないことになっているが,この場合には,本人は保護者とともに保護観察所に出頭することが多い。そして,担当の保護観察官に面接し,将来の生活の指針についての注意を受けたり,保護観察に関する説示を受けたり,当面必要な援助を受けたり,または担当保護司を告げられたりするので,この当初の出頭は,将来の保護観察の方向を左右するものとして重要なものといえよう。昭和三一年以降のこの出頭状況をみると,III-37表のとおり,不出頭率はほぼ漸減傾向を示し,昭和三五年には七・三%となっている。

III-37表 保護観察開始時,保護観察所への出頭・不出頭人員と率(昭和31〜35年)

 この不出頭率は,保護観察付執行猶予者と比較すれば必ずしも高率とはいえないが,少年院仮退院者にくらべると,かなり高いといわなければならない。不出頭の理由の一つとして考えられることは,家庭裁判所の支部で保護観察処分を言い渡された少年は,保護観察所まで出頭するのに相当の困難が伴うということである。保護観察所は家庭裁判所の支部所在地にその支所が置かれてないので,たとえば,静岡家庭裁判所浜松支部で言い渡された者は原則として静岡市内にある保護観察所まで出頭しなければならないが,一般に生活が豊かでないものが多いこの種の対象者は,旅費までつかって出頭することを渋り勝ちであるからである。しかも,支部で言い渡される保護観察の人員は,ほぼその言渡総数の三分の一にあたっている。この意味から,少なくとも家庭裁判所の甲号支部所在地に保護観察所の支部をもうけるべきであるという声が強い。
 保護観察の当初の不出頭者がそのまま所在不明となることもあれば,当初においては保護観察の担当者と接触をもったが,その後において所在不明となるものもあるが,とも角,所在不明となった者は,III-38表のとおり,昭和三一年以降漸増の傾向を示している。これによると,昭和三五年には六%にあたる三,一六〇人が所在不明になっており,また,女子が男子に比して所在不明率が高い。これらの所在不明者の多くは,その所在を発見することがなかなか困難であり,なかには所在不明の中に再犯をする者も少なくない。

III-38表 保護観察処分少年中の所在不明人員と率(昭和31〜35年)

 保護観察は,保護観察斯間の満了によって終了するほか,成績良好による解除,再犯等による家庭裁判所の保護処分取消等によっても終了する。昭和三一年以降の保護観察の終了をその事由別にみると,III-39表のとおり,昭和三五年では,期間満了が六四・〇%,成績良好による解除が二〇・三%,再犯等による取消が一五・〇%である。成績良好による解除の率が昭和三一年以降上昇し,期間満了による率が減少傾向にあるが,再犯等による取消が必ずしも減少を示さず,昭和三五年には一五%にも及んでいることは,注目を要するところといえよう。

III-39表 保護観察処分少年の保護観察終了人員と終了事由別人員の率(昭和31〜35年)

 これと関連して考えなければならないのは,その非行による処分前歴の有無である。家庭裁判所が昭和三五年に保護観察処分を言い渡した少年の総数二〇,九〇七人(道交関係を除く)のうち,処分前歴のないものは五八・〇%で,残る四二・〇%にあたる八,七九〇人は処分前歴の持主であるということである。司法統計年報によって,その処分前歴の内容をみると,刑事処分が三・九%,保護観察,教護院・養護施設送致が一二・一%,少年院送致が三・四%,審判不開始,不処分が八一・二%,不詳が二・二%となっており,また,前処分の回数は,一回が五七・六%,二回が二二・九%,三回以上が一八・九%である。処分前歴をもっているものは少年院在院者のそれ(III-12表参照)と比較すれば少ないといえるが,約四割強が処分前歴者であるということは,その保護観察には並々ならぬむずかしさがひそんでいることを示すものであろう。
 なお,道路交通取締法令違反(以下,道交違反という)に保護観察処分を言い渡す場合が最近わずかではあるが,増加しつつある。III-40表は,家庭裁判所で保護観察処分に付したもののうち道交違反の数と比率を示したものであるが,道交違反は,昭和三一年以降実数において増加しているばかりでなく,比率においても上昇し,昭和三五年には一四・一%となっている。しかし道交違反について保護観察処分の言渡をする傾向は,主として名古屋,金沢,大阪,神戸,高松等の家庭裁判所に限られ,一般的な傾向となっているわけではない。

III-40表 家庭裁判所の保護観察言渡中の道路交通取締法令関係人員と率(昭和31〜35年)