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 昭和37年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/8 

8 医療衛生

 昭和三五年における罹病者(医療を受けて二日以上休養した者または休養はしないが医療を受けて三日以上治癒するに至らなかった者)の数は,五二,三二九人(うち女子一,五二六人)で,罹病率(受刑者一日平均人員に対する罹病者全数の比率)は,〇・六九であり,昭和三一年以降五年間では,II-22表のとおり,昭和三二年に次いで高率を示している。

II-22表 罹病者数および罹病率(昭和31〜35年)

 この罹病率を一般国民のそれと比較することは困難であるが,昭和三四年一〇月に厚生省が行なった国民健康調査の結果と比較してみると,II-4図5図にみるように,受刑者は,消化器系の疾患,伝染病,寄生虫,循環器系の疾患および精神病,精神神経症等の罹病率が高いことが注目される。なお,昭和三五年の発病者につき,入所前に発病していたか,あるいは入所後に発病したかを調べると,入所前に発病していたものが五,九六一人(一二・七%)で,そのうち最も多いのは,結核,淋菌感染およびその他の性病,腸チブス,赤痢などの伝染病で,三九%を占めている。このような伝染病の侵入あるいは発生の予防は,医療衛生上最も配慮を要するものであるが,昭和三六年には一五六件(昭和三五年には八四件)を発見し,すみやかに処置をとっている。

II-4図 収容者と国民健康調査の傷病者百分率(昭和34年)

II-5図 罹病者の病名別人員の百分率(昭和35年)

 次に昭和三五年の罹病者の転帰を事由別にみると,死亡者一七〇人(うち死刑執行三九人),未治出所者六,五一一人,(うち刑の執行停止となった者二〇八人),年末現在なお治癒しないもの五,四二七人,治癒したもの四〇,二二一人となっている。この死亡率は,〇・二%である。
 刑務所における医療衛生は,欠くことのできない重要な仕事であるが,これに従事する医師は,全国で一九七人(昭和三七年三月一日現在)いるが,定員(二一七人)を充足することが困難なため,昭和三六年から矯正医官修学資金貸与法がもうけられ,昭和三七年三月現在で四六人に対して修学資金が貸与されている。
 また,これらの医師を中心に,日本矯正医学会が組織され(昭和三七年三月一日現在会員数七三五人),日本医学会の分科会として,毎年一回大会(昭和三六年度は大阪)を開催しているほか,機関誌「矯正医学」(年四冊)を発行し,矯正施設収容者処遇の科学化を推進している。