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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第五章/七 

七 常習(慣習)犯罪者

犯罪を一度きりでやめてしまうもの,あるいは一度やったが,二度目までの間に五年から一〇年,あるいはそれ以上やらないものは,常習犯罪者とはいえない。犯罪をくり返してはいるが,そのたびごとにちがった種類の犯罪をしているものも累犯ではあるが,ふつう常習犯罪者とはいわない。その反面,スリや万引は,たいていの場合,常習犯として扱われやすい。
 中野刑務所の分類センターでは,犯罪者を犯行の態様から,次の七種に分けている。
偶発犯 過失による犯罪で,全く犯意のないもの。
激情犯 瞬間的な情緒の爆発による犯罪。継続的に激情に駆られるような性格傾向のものは除く。
機会犯 思慮の不足と誘惑に負け,偶然の機会が動機となっているもの。特殊な性格的弱点に由来する場合もある。
単なる累犯 法規的な意味でなく,心理学的に広い意味に理解し,反社会的行為をくり返しているが,まだ慣習性とはなっていないもの。科刑の有無を問わず,また同一犯罪とは限らないが,事実上犯罪をくり返している場合をいう。
予謀犯 あらゆる機会を犯行のために計画的に利用するもの。ただし職業的なものは含めない。
慣習犯 多くは消極的性格者で,たとえば浮浪者に多い。その他,犯罪的環境に育ち,刑罰を不名誉ともおもわず,怠惰と無気力の中に漫然と生活するもの。性格的異常者が多く,単独で同一犯罪をくり返す。
職業犯 積極的な犯罪欲求をもった慣習犯罪者。一般の慣習犯に比し,多くは意志強固で,高い知能を有し,犯罪の機会に不自由しない。
 この分類において注意されることは,犯罪の態様の把握を,単に入所度数や処罰回数のみによらず,個々の犯罪者のもつ知能,性格,生育史,生活態度,犯罪の動機,犯罪の方向様式など,あらゆる面について分析総合を行なっていることである。したがって,常習(慣習)犯罪者としてまとめることのできるもののなかには,現に慣習犯あるいは職業犯であるものばかりでなく,その危険性のあるものを若干含むが,単なる累犯,予謀犯なとのなあには,ある特殊の環境条件と心理的条件のために,ある期間持続的に犯行をくり返すが,それらの条件の消去とともに停止すると予測されるものをかなり含んでいるわけである。
 矯正施設で,受刑者処遇の基礎として採用している分類方式では,後に述べるように,常習(慣習)犯罪者を主とするものがB級であり,そうでないもの,すなわち矯正の可能性の大いものがA級とされている。じじつ,この分類によって,出所後五年にわたる成行調査によると,B級はA級のおおむね二倍に近い再入率を示し(B級では六〇%,A級では三〇%),この方式の方向がかなり的確に犯罪性をとらえていることを示している。したがって,今後はA級における再犯者をさらに成行調査し,また,B級における更生の条件を検討することによって,分類の精度を高め,同時に矯正処遇の方法の確立に資することができよう。
 現在,常習あるいは慣習犯としてB級に分類されているものの特徴は,おおむね再入者の特徴に一致するが,とくに最近明らかにされつつある点は,次の諸点である。
(1) 職業的な犯罪者のほとんどが,背景に暴力的集団をもっていること。いわゆる博徒・テキ屋などの集団が,その資金源として犯罪を成員に強制していること。そのために,従前に比較して,恐喝,傷害などの累犯がかなり目立ってきている。
(2) このなかには,前科者による組織的な犯罪が目についてきていること。博徒・テキ屋以外の類似集団の増加によって推察できる。
(3) 常習化している窃盗犯,詐欺犯は,ほとんど単独犯であること。このようなものには,意志薄弱性,自己顕示性などの性格傾向が,その習慣化を促進しているものとおもわれる。