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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第五章/二/4 

4 新受刑者からみた再犯者,累犯者

 自由刑の実刑を受け,刑務所に収容された新受刑者について初犯者・累犯者別の割合をみてみよう。ここにいう累犯者とは,刑法上の累犯の意味であり,初犯者とは累犯者でないものを指している。
 I-13図は,昭和一〇年以降につき新受刑者を初犯者・累犯者に分け,その割合をグラフにしたものであるが,これによって明らかなように,戦前の昭和一〇年ないし一六年までは,初犯者と累犯者の割合はほぼ等しく,累犯者が初犯者を上回ったのは,昭和一三年,一四年,一五年の三年間で,最も比率の高かった昭和一五年でも五三%にとどまっていたが,戦争の進展するに伴い初犯者の比率が高まり,昭和一九年には初犯者が七四%を示すようになった。この傾向は,戦争直後にも続き,昭和二一年には初犯者が七六・八%と戦前戦後を通ずる最高率を示すに至った。これは戦争直後の混乱期に犯罪者が続出し,その大半が初犯者であったことによるものである。その後は初犯者の率は逐年減少し,昭和二六年には両者の比率が均等になり,昭和二七年以降は逆に累犯者が初犯者の率を上回るようになり,昭和二八年からは,ほぼ一定した比率,すなわち,累犯者が五六%ないし五八%を維持して昭和三五年には五六・三%となっている。

I-13図 新受刑者中の初犯・累犯別人員と比率(昭和10〜35年)

 敗戦直後に犯罪が激増する場合には,初犯者の犯罪が異常に増加し,その状態が回復すると通常の状態にかえることが,第一次世界大戦後のドイツとオーストリーについて明らかにされたが,わが国も今次の大戦でこれと似た傾向をとったといえる。昭和二八年ごろから経済事情の回復に伴った通常の状態にもどったものとおもわれるが,戦前の昭和二年ないし昭和一一年の平均をとると,初犯者と累犯者の割合は五五対四五で,初犯者の率が上回っていたのであって,最近のような累犯者の比率が初犯者を上回るような状態にはなかったのである。戦前の比率が正常なものかどうかは問題があるが,もしこれが正常なものだとすれば,最近の初犯者・累犯者の割合は通常の状態にもどったものとはいえないであろう。もしそうだとすれば,現在の状態が戦争の影響をまだ間接的にでも受けているために生じたものか,またはその他の要素によるものかどうか十分に検討する必要がある。
 次に,刑務所への入所度数,すなわち刑の執行を受けるために刑務所に入所したことのある度数を調べてみると,I-85表のとおり,新受刑者(ある年度に刑務所に新入した者をいう)のうち初度目(初めて入所したもの)は,約四〇%であり,残る約六〇%は再度目以上のものである。昭和三五年には六度目以上の者が一二・〇%とやや増加している点が目が立っている。この入所度数と刑法上の犯数とは必ずしも一致するものではない。累犯者であっても,ごくまれではあるが初めて入所するものもある。

I-85表 新受刑者の入所度数別人員と率(昭和33〜35年)

 前に自由刑の執行を受け,満期釈放,仮釈放または恩赦によって出所した後,一〇年以内に,さらに犯罪を犯し,禁錮以上の刑に処せられて,再び刑務所に入所したものを,とくに再入受刑者とよんでいる。再入受刑者は,右に示したI-85表の入所度数の二度目以上の者と必ずしも一致するわけではない。すなわち,出所後再犯を犯して再び刑務所に収容されれば,その期間を問わず入所度数が二度目となるが,再入受刑者というためには,出所後十年以内に再入所した者でなければならないからである。この再入受刑者については,法務省保管の前科者の指紋原紙(昭和三五年末現在で九六〇,四五二枚,禁錮以上の刑の執行を受けた者または現に受けている者の指紋原紙である)によって正確に調査できるので,ある年度に刑務所に新入した者(新受刑者)の総数のなかで再入受刑者の占める比率をみると,I-86表のとおり,昭和三五年には,五八・五%である。この率は,昭和三一年以降やや上昇気味にあるが,五七%ないし五八%の線でほぼ一定している。そしてこの率は累犯者の比率と大体一致してるといえるであろう。

I-86表 新受刑者中の再入受刑者数と率(昭和31〜35年)

 新受刑者うちで女子の占める比率は,最近の五年間のの平均をとっても二・四%にすぎないが,再入受刑者総数のうちで女子のそれの占める比率は一・六%であって,初入受刑者総数のうちで女子の占める比率三・六%に比して,はるかに低い。また,男女別にそれぞれの新受刑者のうちで占める再入受刑者の比率は,男子が五八・二%,女子が三七・五%(いずれも五年間の平均)であって,女子の再入受刑者は男子に比較してかなり低いといえるもである。

I-14図