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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第四章/二 

二 少年犯罪の罪種

 少年犯罪の罪種がどのようなものであるかをみるために,昭和三六年における刑法犯の主要罪名別に警察で検挙された少年の人員を示すと,I-63表のとおりである。これによると,成人,少年を含めた検挙人員総数のなかで少年のそれが占める比率は二七%であるが,これを罪名別にみてこの平均比率を上回るものは,強姦(五一%),強盗(四八%),窃盗(四一%)であり,これに対して平均比率を下回るものは,詐欺(八%),横領(一〇%),殺人(一五%)である。暴行,傷害,脅迫,恐喝の粗暴犯は,平均比率と同水準の二七%であるが,これはその数が他に比して多いため,粗暴犯が平均比率の構成に大きく影響を与えているとおもわれる。

I-63表 少年刑法犯の罪種別検挙人員と刑法犯全検挙人員に対する率(昭和36年)

 このように,刑法犯では強姦,強盗,窃盗の占める割合が高く,詐欺,横領,殺人は低いが,とくに,強姦は成人より少年の方が検挙人員が多く,その総検挙人員のうち五一%まで少年であるということは,驚くべき数字といわなければならない。では,これらの刑法犯の罪名について昭和二九年以降の増減をみると,I-64表のとおり,昭和二九年を一〇〇とする指数で示すと,昭和三六年で最も増加率の高いのは,恐喝の四七一であって,これに次ぐものは,暴行(三三三),猥せつ(二七四),強姦(二一二),脅迫(二一〇),傷害(一八四)である。一般的にいって,暴力的犯罪または性的犯罪にその増加率の高いものが多い。これに反して減少を示しているのは,横領の四四,詐欺の五二,放火の九二である。横領と詐欺は昭和二九年以降ほぼ逐年減少傾向を示している。

I-64表 主要罪名別少年刑法犯検挙人員と指数(昭和29〜36年)

 さきに示した少年の占める比率の高い強姦,強盗,窃盗について,昭和二九年以降の推移をみると,強姦は,昭和三三年をピークとしてそれ以後は減少傾向を示し,強盗は,昭和三五年まで上昇してきたが昭和三六年にはやや減少して一三七を示し,また,窃盗は,昭和三三年まで一進一退を示したが昭和三四年より増加傾向をみせて昭和三六年には一三三となっている。しかし,刑法犯全体の増加率は一六八であるから,強盗,窃盗ともにこれを下回っている。そこで,強姦,強盗,窃盗については,好転しているとはもちろんいえないが,他の罪種と比較してきわだった増加傾向を示さず,一応落着のある方向に向かおうとしているといえるであろう。これに反して,恐喝,暴行,猥せつ,傷害,脅迫は,いずれも顕著な増加傾向をみせ,いわゆる暴力的犯罪と性犯罪とが少年犯罪において憂慮すべき罪種となっている。
 少年は付和雷同性が強いとともに,共犯者のあることによってその犯罪意識が高められ,単独犯では到底考えられないような犯行を共犯者のある場合に行なうことがある。そこで,警察で刑法犯について検挙した少年のうち,共犯を伴うものの比率をみると,I-65表のとおり,昭和三一年以降上昇傾向をたどり,昭和三四年には二六・五%となったが,昭和三五年にはやや減少して二五・五%となっている。これは,刑法犯少年事件の四分の一強が共犯者のあるものということになり,成人の一一・九%に比較して約二倍強の高率を示しているのである。

I-65表 主要罪名別刑法犯の共犯事件数の率(昭和31〜35年)

 これを罪種別にみると,共犯者の伴う率の高いのは,強盗(四四・五%),強姦(三九・八%),恐喝(三五・〇%),窃盗(二八・五%)であり,これに反して低いのは,殺人(八・七%),放火(五・九%)である。また,成人の共犯率と比較して,少年のそれがとくに高いのは,強姦(成人の約三倍),暴行(二・二倍),放火(二・一倍)である。これに反してさほど高くないのは,恐喝(一・二倍),殺人(一・四倍),傷害(一・五倍)である。強姦と恐喝とは,ともに共犯率が高い罪種であるが,成人の共犯率と比較した場合に強姦はとくに高率であるのに反して,恐喝は成人とくらべてもとくに高率であるとはいえないということになる。少年の強姦の共犯率が高いのは,成人とちがって輪姦が多いためであり,恐喝が成人に比して共犯率がとくに高くないのは,成人の場合でも共犯を伴うことが多いためである。
 この共犯率を六大都市(東京,大阪,神戸,京都,名古屋,横浜)についてみると,犯罪統計書によれば,六大都市における少年の共犯率は,昭和三一年の二六・八%から逐年増加し,昭和三四年には三三・五%となり,昭和三五年にはやや減少して三二・四%となっている。これを全国平均の共犯率二五・五%と比較すると,昭和三五年においては六大都市の少年の共犯率は全国平均の共犯率より約七%も高いことになる。このように共犯率は,大都市において高率を示しているのであるが,この点は,後述する少年犯罪の集団化が大都市においてとくに顕著であることと密接につながるものである。