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 昭和37年版 犯罪白書 第一編/第一章/三 

三 少年犯罪の増加と少年人口

 少年犯罪(少年とは,一四歳以上二〇歳未満のものをいう)の増加は,各方面からその重大性を指摘されているが,この傾向は変わるところがなく,昭和三五年には戦後の最高を示し,ことに年齢層の低い少年にその増加率が高い。警察で刑法犯につき検挙した人員を少年・成人別に昭和三〇年以降のものをみると,I-5表のとおり,少年は実数において逐年増加を示し,昭和三六年には昭和三〇年の検挙人員の六四%増を示している。また,一四歳以上の少年有責人口千人に対する率をみると,昭和三〇年の九・二から漸増し,昭和三六年には一四・〇となり,約五割強の増加をみている。これに対して成人の刑法犯検挙人員は,昭和三〇年より減少を示し,昭和三五年には九四(昭和三〇年を一〇〇とする指数)を示したが,昭和三六年にはやや増加して九七を示している。これを成人の有責人口千人に対する率でみると,昭和三〇年の八・六から年ごとに減少し,昭和三六年には七・三となっている。

I-5表 少年・成人別の刑法犯検挙人員と率等(昭和30〜36年)

 このように,成人の場合には大体において落着きを示し,安定した状態にあるといえるが,少年については増加が顕著であって,憂慮すべき傾向にあるといえる。このことは,刑法犯について家庭裁判所が終局決定をした人員についてもあらわれている。すなわち,I-6表にみるように,昭和三〇年の一〇七,三四七人から逐年増加し,昭和三五年には一六七,六〇九人と約五割強の上昇をみせている。

I-6表 少年保護事件の終局決定別人員と率(刑法犯)(昭和30〜35年)

 しかし,同表にみるように,刑法犯で家庭裁判所が刑罰を科することを相当として検察官に送致(いわゆる逆送)する人員は,近年増加傾向にあるとはいうものの,昭和三五年には七・七%にすぎない。しかも,この大半は業務上過失致死傷であるから(I-7表参照),少年犯罪のすう勢は,新受刑者の増減にさして影響を与えているとはいい難い。

I-7表 検察官送致(逆送)人員中の業務上過失致死傷および過失致死傷の人員と率(昭和30〜35年)

 家庭裁判所が言い渡す処分として,右の検察官送致のほかに,少年院送致,保護観察に付する等の保護処分その他審判不開始,不処分等があり,一般的にいって,非行性の比較的進んだ少年に対しては,少年院送致が言い渡されているが,少年院送致は,昭和三〇年以降必ずしも増加傾向にあるとはいえない。すなわち,I-6表に示すように,その実数は多少の高低はあるが,さして増加しているとはいい難い。
 では,少年犯罪の今後の見通しはどうか。現状のままで進むときは,少年犯罪の数的増加傾向はますます顕著になるものと予想されるのである。というのは,いわゆる終戦つ児の増加に伴って,昭和四三年ごろまで少年人口が急激に増加するからである。I-8表は,昭和三五年から昭和四五年までの少年人口の推移をみたものであるが,これによると,昭和三五年を一〇〇とすれば,昭和三八年には一一五,昭和四一年には一二四となり,この年をピークとしてその後は漸減し,昭和四五年にほぼ昭和三五年と等しくなるのである。

I-8表 少年人口の推移(昭和35〜45年)

 人口の増減と犯罪とは密接な関係にあり,人口が増加すれば,それだけ犯罪も増加するといわれているから,少年人口の増加は,当然少年犯罪の増加をもたらすものと推測されるのである。このように,少年人口の面だけから考えても,ここ当分は少年犯罪は,増加の一途をたどることになろうが,前述したように,有責人口との対比において,少年の犯罪率は上昇を示しているから,このままの状態でゆくならば,この傾向に一層拍車をかけることになろう。
 これらの少年層は,いずれも戦争直後の混乱期にその幼少期をむかえたものであり,またその多くは,経済的窮乏と社会的混乱の苦しい洗礼を幼少期に受けたものであり,さらには家庭的環境の不良であったものも少なくないと想像される。すなわち,これらの少年の相当数は戦後の不良な影響を幼少期に受けているのである。アメリカで少年の非行予測の可能性を主張したグリュック博士は,五,六歳時の少年の環境が将来の少年非行に決定的な力をもつと主張しているが,この説の当否には問題があるとしても,このような幼少期の環境が少なくとも少年非行の温床となる場合が少なくないと想像されるのである。もしそうだとすれば,今後少年人口に加わってくる少年層のなかには,注意を要するものがあるとおもわれる。そこで,今や少年犯罪に対する抜本的対策を樹てて,国民が総力をあげてこれを推進する必要があるのである。