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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第3章/第3節/2 

2 罪名の変遷

(1) 犯数別の罪名の変遷
 IV-28表は,多数回前科者が犯した犯罪について,初犯から第5犯まで,第6犯から第10犯まで,第11犯から第20犯まで,第21犯以降の4段階に分けて,それぞれの段階において,どのような罪名の犯罪が多く犯されているかを見るために,前科となった罪名全部を累計して多い順に第10位までを掲げたものである。第20犯以前の各段階では,総数で多い窃盗,傷害,暴行,詐欺などが上位を占める(犯数を重ねると覚せい剤取締法違反も多くなってくる。)が,第21犯以降では,船舶安全法違反,軽犯罪法違反,売春防止法違反,船舶職員法違反など,第20犯以前の場合とはかなり異なった罪種が上位に登場してくる。
(2) 年齢別の罪名の変遷
 IV-29表は,多数回前科者が犯した全罪名について,その裁判時の年齢層別に多い順に第10位までを見たものである。総数で最も多い窃盗は,どの年齢層においても第1位を占めているが,総数で次に多い傷害は,40歳代以下ではいずれも第2位であるのに,50歳代,60歳代においては,それぞれ第4位,第8位に後退しており,また,暴行,恐喝及び暴力行為等処罰法違反は,30歳代以下では上位を占めるが,これを超える年齢では,年齢層が高くなるにつれて少なくなっており,これらの粗暴犯は,年齢層が比較的低い者の犯すことが多い犯罪であることを示している。年齢層が高くなるにつれて,順位が上位にくる罪名は詐欺であって,30歳未満では第5位であるのに,30歳代及び40歳代では第4位,50歳代及び60歳以上では第2位と上昇しており,また,覚せい剤取締法違反及び賭博は30歳代以上において多くなり,船舶安全法違反も40歳代以上において上位に登場してくるものである。

IV-29表 多数回前科者の裁判時年齢層別罪名順位

(3) 年代別の罪名の変遷
 次に,多数回前科者が犯した全罪名を昭和の年代別に多い順に第10位まで掲記したのがIV-30表である。窃盗,傷害,詐欺,暴行,銃砲刀剣類所持等取締法違反は,どの年代においても多いが,年代によって増減の著しい罪名を見ると,昭和20年代,30年代に多い賍物罪は,40年代以降激減しており,33年から施行された売春防止法の違反は,30年代,40年代においては10位以内にあるものの,50年代以降は減少し,自動車交通の発達に伴って40年代以降は業務上過失致死傷が増加している。また,覚せい剤取締法違反は,第一次流行期の20年代には第7位に上っていたが,その後減少し,第二次流行期の50年代には第3位に登場し,60年代には第2位となっている。このように,多数回前科者の犯す犯罪においても,時代による犯罪動向の影響が敏感に反映されているものである。