前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第3章/第1節/3 

3 罪名及び罪種

 それでは多数回前科者は,どのような種類の犯罪を犯しているのであろうか。これらの者が犯した犯罪の犯歴数を累積すると,合計58万3,963犯であるが,ここで1犯として数えられている1個の確定裁判の中には,幾つかの犯罪が裁判の対象となっていて,裁判の罪名が,例えば,詐欺・窃盗・傷害というように複数にわたるものも少なくない。そこで,実態を正確に把握するため,前科調書上,1個の前科において複数の罪名が掲げられている場合は,これらの罪名をすべて計上して累積すると,合計74万3,329罪となるが,その罪名別累積数を20位まで見ることとし,また,どのような犯罪が同一人によて繰り返される比率が高いかを知るため,当該罪名の犯罪を犯した者の実人員数(同一人が同じ罪名を数回犯した場合は1人とする。)を見るとIV-21表のとおりである。罪名で最も多いのは,窃盗(常習累犯窃盗を含む。)の13万1,352罪であり,次いで傷害の10万5,865罪,暴行の5万9,021罪,詐欺の3万6,219罪などとなっている。これを罪種別に見ると,粗暴犯(本章では,傷害,暴行,脅迫・強要,恐喝,凶器準備集合及び暴力行為等処罰法違反をいう。)が23万3,028罪(全体の31.3%)で最も多く,次が財産犯(本章では,窃盗,詐欺,横領,背任及び賍物罪をいう。)の18万9,011罪(全体の25.4%)で,この2罪種が多数回前科者によって犯されやすい犯罪の双璧と言うことができる。しかし,その他に風俗事犯(本章では,賭博,売春防止法違反,風俗営業等取締法違反,児童福祉法違反,職業安定法違反,競馬法違反,自転車競技法違反及びモーターボート競走法違反をいう。)が7.6%,保安関係犯罪(本章では,軽犯罪法違反,銃砲刀剣類所持等取締法違反及び火薬類取締法違反をいう。)が5.1%,薬物事犯(本章では,覚せい剤取締法違反,麻薬取締法違反,大麻取締法違反及び毒物及び劇物取締法違反をいう。)が5.4%を占めており,これらの罪種もかなりの数に上っている。なお,凶悪犯(本章では,殺人及び強盗をいう。)は,6,230罪(0.8%),性犯罪(本章では,強姦,強制猥褻,公然猥褻及び猥褻文書頒布等をいう。)は,1万360罪(1.4%)となっている。

IV-21表 多数回前科者の犯した罪名

 次に,罪名の累積数をその罪名を犯した人数で除して,同一人が同一罪名の犯罪を犯した平均回数を見ると,最も多いのは,毒物及び劇物取締法違反の7.8回で,次いで船舶安全法違反の7.3回,売春防止法違反の5.2回,風俗営業等取締法違反の5.1回などであり,これらは同一人によって繰り返されることの多い罪名であり,その他では,窃盗が4.9回,傷害が3.4回,暴行が2.5回,詐欺が3.1回,覚せい剤取締法違反が2.6回などとなっている。これに対して,同一人によって繰り返されることの少ない罪名は,同表中に掲記されていない罪名が多いが,罪名数が極端に少ないものを除くと,殺人(1.1回),強盗(1.1回),強姦(1.1回),放火(1.3回)などの重大犯罪である。もっとも,以上の数値は,あくまでも全体の統計上の数値であることは,言うまでもない。