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 昭和63年版 犯罪白書 第4編/第2章/第2節/3 

3 窃盗及び詐欺の累犯

(1) 概  説
 次に,繰り返される財産犯の典型とも言うべき窃盗・詐欺の累犯を見ることとする。
 法務総合研究所では,窃盗・詐欺を繰り返す犯罪者の人格特性等を明らかにするため,昭和61年の再入新受刑者の1万8,224人のうち,前刑及び本刑に係る各犯罪が,いずれも窃盗である者(以下「窃盗累犯」という。)4,390人及びいずれも詐欺である者(以下「詐欺累犯」という。)713人について,この両者を対象者とし,これ以外の受刑者1万3,121人を比較対照群として,受刑者入所調査票に基づいて調査を行った。ム下,その調査結果によって,窃盗累犯及び詐欺累犯の特性の幾つかを取り上げて考察する。
(2) 人格特性
 人格特性として,まず,知能指数について見ると,IQ79以下の者が占める比率は,詐欺累犯では76.2%(前回調査時55.0%),窃盗累犯では61.9%(同44.7%)であり,比較対照群の49.7%(同31.4%)と比べて,かなり高率になっており,この傾向は10年前より更に際立っている。反対に,IQ90以上の者が占める比率は,比較対照群の30.7%(同44.8%)に対して,窃盗累犯では23.7%(同36.3%),詐欺累犯では12.6%(同17.5%)と低くなっている。次に,精神状況について見ると,精神障害のある者の比率は,比較対照群の3.1%(同5.5%)に比べて,詐欺累犯では6.9%(同12.0%),窃盗累犯では6.8%(同11.3%)と高くなっているのが注目される。
 IV-15表は,年齢について見たものである。今回の調査結果によれば,前回調査結果と比較した場合,34歳以下の者が激減し,50歳以上の者が著しく増加している。類型別に見ると,詐欺累犯では,30歳未満の者が3.2%(同14.6%)と極めて少なく,比較対照群の15.1%(同45.0%)及び窃盗累犯の13.4%(同33.8%)を大きく下回っており,逆に,50歳以上の者の占める比率が43.3%(同17.1%)と,窃盗累犯の27.3%(同9.2%)及び比較対照群の14.7%(同3.4%)を大きく上回っているのが注目され,詐欺累犯の連発傾向と持続傾向を裏付けるものと言えよう。

IV-15表 窃盗・詐欺累犯者の年齢層別構成比(昭和51年,61年)

(3) 生活状況等
 調査対象受刑者についての本刑に係る犯罪の犯行時における生活程度を見ると,生活程度の下の者は,窃盗累犯で74.9%(前回調査時70.1%)を占め,詐欺累犯でも74.5%(同64.9%)となっているが,これに対して,比較対照群は57.6%(同46.6%)である。窃盗累犯及び詐欺累犯は,比較対照群と比べて貧しく,10年前と比較して貧困化してきていることが認められる。
 次に,本刑に係る犯罪の犯行時における配偶者の有無等を見ると,配偶者のある者は,比較対照群の47.2%と比べ,詐欺累犯で17.0%,窃盗累犯で17.4%と極めて低く,逆に,未婚者の割合は,比較対照群が29.7%であるのに,詐欺累犯は42.9%,窃盗累犯は53.9%と極めて高くなっている。
 また,本刑に係る犯罪の犯行時における職業を見ると,無職の者は,窃盗累犯で72.8%(同50.0%),詐欺累犯で78.4%(同45.0%)を占め,10年前の数値を大幅に上回っている。
 以上,窃盗,詐欺の累犯は,10年前の調査時と比べて,高齢化が進行し,一層,定職,定住性に欠け,貧しい者が多くなっているように思われるのである。