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 昭和63年版 犯罪白書 第2編/第3章/第3節/4 

4 刑務作業

(1) 概  況
 刑務作業は,受刑者の改善更生及び社会復帰を図るための重要な処遇の一つであり,受刑者の勤労意欲のかん養,職業的技能及び知識の習得,忍耐心・集中心の養成を図ることなどを目的として行われている。刑務作業の形態は,その性質・目的から,生産作業,職業訓練及び自営作業に分かれており,その業種は,木工,印刷,洋裁,金属,革工等20余種に及び,受刑者は,各人の適性等に応じそれぞれの業種に指定され就業している。
 刑務作業は,刑法上定役に服することが義務とされている懲役受刑者が行う作業を中心として実施されているが,ほかにも,労役を課すこととされている労役場留置者の作業と,法律上は作業を強制されない禁錮受刑者,未決拘禁者等による請願作業が含まれる。昭和63年3月末における請願作業に就業した者の比率は,禁錮受刑者ではその92.8%,未決拘禁者ではその1.2%となっている。
 昭和62会計年度における刑務作業の状況を見ると,景気は回復傾向にあると言われながらも,刑務作業の主な契約先である中小零細企業は,依然として不安定な経営を余儀なくされていることから,契約企業からの契約の解除や減産の申入れが数多くあったが,代替作業の導入に努め,1日平均4万4,073人が就業し,年間約23億円の作業費を使用して,約157億円の収入を得ている。
 なお,昭和58会計年度から,国の行財政改革の方針に沿って,製作収入作業に要する原材料費(年間約40億円)を削減し,これに代わって財団法人矯正協会刑務作業協力事業部が国に原材料を提供し,製品を販売するという,いわゆる第三セクター方式による作業(事業部作業)が開始されたが,その運営は,順調に推移し,62会計年度の売上高は,約125億円に達するなど,有用作業の導入,作業量の確保の面で大きな役割を果たしている。
(2) 職業訓練
 職業訓練は,受刑者に対し,職業に必要な技能を習得させ,又はその技能を向上させることを目的として,総合訓練,集合訓練及び自所訓練の三つの類型で行われている。その実施に当たっては,できる限り,公の資格又は免許を取得させるように努力が払われている。
 総合訓練は,全国各施設から適格者を選定し,指定された7か所の総合職業訓練施設(福井,山口及び山形の各刑務所,川越,奈良,佐賀及び函館の各少年刑務所)において実施されている。集合訓練及び自所訓練は,それぞれ各矯正管区及び施設ごとに訓練種目を定めて実施されており,昭和62会計年度では,集合訓練施設は28庁,自所訓練施設は32庁となっている。II-36表及びII-37表は,62会計年度における職業訓練の実施状況及び資格又は免許の取得状況を示したものである。
(3) 構外作業
 構外作業は,刑務所が管理する構外作業場において行われるほか,民間企業の協力を得て一般事業所においても実施されている。また,実施の態様として,作業場に泊り込んで行う「泊込作業」と施設から作業場へ通勤して行う「通役作業」とがある。作業の内容は,主として農耕・牧畜,木工,金属,造船等である。特に,松山刑務所所管の大井造船作業場,尾道刑務支所所管の有井作業場などでは,泊込作業として綿密な処遇計画の下に開放的処遇を行い,良好な成績を維持している。

II-36表 職業訓練種目別修了人員

II-37表 資格・免許取得状況

(4) 就業条件
 就業者の作業時間は,1日につき8時間,4週間につき168時間と定められており,作業中の休息時間も認められている。また,作業環境や作業の安全及び衛生については,労働基準法や労働安全衛生法等の趣旨に沿ってその整備が図られている。
 一方,就業者が作業上不測の事故により災害を受けたときなどは,手当金(死傷病手当金)が支給されることになっている。
 刑務作業の収入は,すべて国庫の収入となるが,作業に従事した者に対しては作業賞与金が支給される。この賞与金の性格は,就労の対価としての賃金ではなく,恩恵的・奨励的なもので,原則として釈放時に支給されるが,在所中家族あてに送金すること,又は所内生活で用いる物品の購入等に使用することが許されている。作業賞与金の基準額については,毎年増額が図られており,昭和62会計年度の1人1か月当たりの平均計算高は,3,042円となっている。
 なお,受刑者には一定の条件下で,余暇時間内に自己の収入となる自己労作を行うことが許されており,昭和63年3月末現在,475人が自己労作に従事し,1人1か月平均4,223円の収入を得ている。