前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和61年版 犯罪白書 第4編/第4章/第2節/2 

2 傷  害

 本件の調査対象人員は435人で,犯行時の年齢を基準にすると,成人303人(全員男子),少年132人(うち,女子21人)である。
 傷害は,比較的暴力団との結び付きの強い犯罪とされているが,本件調査対象者のうち,暴力団構成員は,成人で189人(成人の62.4%),少年で31人(少年の23.5%)となっており,本章で取り上げた8罪種のうちでは,恐喝同様の高い率となっている。また,これら傷害事犯者の処分歴について見てゆくと,成人の暴力団構成員では,62.4%が刑務所入所経験を有し,成人の非暴力団では,53.5%の者が刑務所入所の経験がある。少年の暴力団構成員では,77.4%が保護観察又は少年院送致の処分歴があり,少年の非暴力団では,55.4%の者がこれらの処分歴を有している。
 今回の調査対象者は,以上のような特性を有する者であり,起訴猶予処分や罰金で処理される傷害事犯者との間には,少なからぬ差異があるものと思われるが,本調査対象者に,その犯行が計画的なものであったか否かを質問した結果は,次のようになっている。偶発的と答えた者は,成人で91.1%,少年で72.0%を占めている。逆に,計画的犯行と答えた者は,成人で8.9%,少年で28.0%となっており,その内訳を見ると,少年の非暴力団31.7%,少年の暴力団構成員16.1%,成人の暴力団構成員11.1%,成人の非暴力団5.3%の順となっている。したがって,傷害事犯は,矯正施設に収容された者においても計画的犯行は少なく,その多くは偶発的に発生することを窺わせる。

IV-23表 被害者を選定した理由(傷害)

 このような加害者が,なぜその相手を被害者に選んだかの理由を問うた結果は,IV-23表のとおりである。
 まず,成人について多い順に見てゆくと,第2群中の「相手の方から挑発してきた」が62.4%,同じく第2群中の「相手を許せない理由があった」が56.4%,第3群の「相手は不注意だった」が53.5%,第6群の「相手はたまたまそこにいた」が50.5%となっている。逆に少ないのは,第1群で3間とも10%以下である。また,このIV-23表で見る限り,成人の場合には,暴力団構成員と非暴力団との差は小さく,ほぼ同じ傾向が窺える。
 次に,少年についても,多い順に見てゆくと,第2群の「相手を許せない理由があった」が64.4%,第3群の「相手は不注意だった」が52.3%,第4群の「相手は自分より弱いと思った」が48.5%,第3群の「相手にはすきがあった」が47.7%となっており,成人の第1位であった第2群の「相手から挑発してきた」と答えた者は46.2%で,少年では第5位となっている。逆に少ないのは,ここでも成人と同じ第1群で,成人ほどではないが,やはり低くなっている。また,暴力団構成員と非暴力団との差異は,若干あるものの,全体としては少年の場合も,ほぼ類似の傾向が認められる。
 以上の結果を要約すると,成人の場合は,「相手の方から挑発してきた」とか,「相手に許せない理由があった」というように,被害者の方に事件を発生させる理由があることを,被害者選定の重要な要因とすることが多い。これに対し,少年の場合は,「相手にはスキがある」とか「相手は自分より弱いと思った」等を,重要な要因としている者が多く,傷害事犯における成人と少年の特性の差異を窺わせる。
 IV-24表は,傷害の加害者と被害者との関係を,男女別に見たものである。男子が加害者の場合には,やはり被害者も男子が多い。その内訳は,少年の暴力団構成員93.5%,少年の非暴力団の92.5%,成人の暴力団構成員91.0%と,いずれも9割を超えており,成人の非暴力団のみが80.7%となっている。また,女子が加害者の場合には,被害者もすべて女子となっている。

IV-24表 加害者と被害者の男女別構成比(傷害)

IV-25表 被害者との面識の有無及び程度(傷害)

 IV-25表は,加害者と被害者との面識の有無とその程度を見たものである。「よく知っている」は,成人,少年とも非暴力団に多く,逆に「面識なし」は,成人,少年共に暴力団構成員に多い。これは,非暴力団による傷害事犯の場合には,加害者と被害者間の感情のもつれなどによって事犯が引き起こされることが多いのに対し,暴力団構成員の場合には,これ以外の他の要因から,傷害に及ぶことが多いことを示しており,暴力団構成員の特性と危険性の一端を物語るものであろう。

IV-26表 加害者と被害者の飲酒状況(傷害)

 IV-26表は,傷害の犯行時における加害者及び被害者の飲酒状況を,成人について見たものである。まず,加害者の飲酒状況を見ると,暴力団構成員よりも,非暴力団の方に飲酒していた者が多い。なお,加害者と被害者の双方が飲酒していない場合について見ると,暴力団構成員の27.0%に対し,非暴力団は14.9%とかなり少なくなっている。このことから,成人の非暴力団は,アルコールの影響下で傷害に及ぶことが多いのに対し,暴力団構成員は,それ以外の要因から,犯行に至る傾向がより強いことが窺える。
 ところで,このような傷害事犯者は,事犯の責任が,自己と被害者とのどちらに,どの程度あると考えているであろうか。この点について質問した結果が,IV-27表である。加害者の責任の度合いの方が,被害者の責任の度合いより重いとした者の合計は,成人の52.1%に対し,少年は77.3%となっている。逆に,被害者の責任の方が重いとした者の合計は,成人の暴力団構成員が30.1%,成人の非暴力団が19.3%,少年の暴力団構成員が9.7%,少年の非暴力団が6.0%の順となっており,成人は少年よりも被害者の非を挙げる者が多く,また,暴力団構成員は非暴力団より,被害者の方が悪いとする傾向を示している。

IV-27表 責任の所在についての加害者の意識(傷害)

 次に,このような傷害事犯者が,被害者の感情について,どのように考えているのかについて見ることとする。今回の受刑や少年院への入院で,被害者は納得したと思うと考えている者は,成人の暴力団構成員の39.7%,成人非暴力団の32.5%,少年非暴力団の27.7%,少年の暴力団構成員の22.6%の順となっている。次に,被害者が加害者に対して,今後とも憎み続けるであろうとした者は,少年の暴力団構成員29.0%,少年の非暴力団が24.8%であるのに対し,成人は,非暴力団で13.2%,暴力団構成員で5.8%と低くなっている。成人の暴力団構成員は,刑事処分によってすべてが終わり,被害者も納得したと考える傾向が強く,少年の暴力団構成員は,逆に,被害者の感情を思いやる傾向が強いことを窺わせる。
 最後に,傷害による負傷の程度別に,加害者の贖罪意識を,成人について見たのが,IV-28表である。まず,被害者が死亡した場合について見ると,暴力団構成員も非暴力団も共に,深く反省し,自ら更生しなければならないと考えているとする者が多い。しかし,それ以外の場合では,その傷害の軽重を問わず,暴力団構成員では4割弱の者が,非暴力団でも2割強の者が,裁判による処分を受け,これに服したことをもって足りるとしている点が注目される。

IV-28表 被害者の負傷程度別に見た加害者の贖罪意識(傷害)