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 昭和60年版 犯罪白書 第4編/第3章/第4節/3 

3 矯正における処遇

 上述のとおり,交通事犯受刑者特に禁錮受刑者には,犯罪傾向,人格特性などの点で問題の少ない者が多く含まれている。このため,昭和30年代から急増した交通事犯禁錮受刑者に対して,開放的な処遇が本格的に実施されるようになった。
 交通事犯禁錮受刑者の収容施設には,現在,全国で8施設が指定されており,これらの施設に収容された交通事犯受刑者については,原則として,居室,食堂,工場等に施錠なせず,構内においてぱ戒護職員を付けることなく,交通安全教育のほか,生活指導,教科指導,職業指導など,社会復帰に役立つ処遇が積極的に展開されている。
 生活指導においては,遵法・人命尊重の精神並びに責任感の養成に重点が置かれており,職業訓練には,自動車運転科,自動車整備科等が設けられている。また,職業指導では,各人の自動車運転適性,将来の生活設計などを考慮して,職業技能の開発が行われており,自動車運転の適性がないと認められる者及び自動車運転の職業から他に転職することを希望する者{こ対してぱ,転職のための指導が行われている。

IV-59表 交通事犯受刑者の犯罪等の状況(昭和59年7月〜60年1月)

 なお,このうちの一部の施設においては,交通事犯懲役受刑者をも収容して開放的処遇が実施されている。
 ちなみに,昭和58年中にこの8施設に新たに収容された受刑者は,禁錮,懲役合わせて835人である。
 法務総合研究所は,この8施設の昭和59年7月から60年1月までの7か月間の人出所者を対象に,犯罪の態様等についての調査を行ったが,IV-59表及びIV-60表は,その結果の一部である。
 これによると,事故又は違反時に運転免許証を携帯していた者は57.0%にすぎず,運転態様では,「所用等のため」が44.6%で最も多く (この中には,飲酒後帰宅途中等の者も相当数含まれている。),「営業配達のため」がこれに次いでいる。そして,事故や違反の原因を見ても,飲酒運転と無免許運転とが目立って多く,両者が共に関与しているものもかなり認められる。
 出所時に帰住した先を見ると,88.3%が親族のもとであり,この数値は,交通関係受刑者を除く受刑者(以下「一般受刑者」という。)のそれに比べて著しく高く,彼らの家庭環境が比較的良好であることを示唆している。また,雇主のもとへ帰住した者が,一般受刑者の場合よりも高率になっていることも注目される。なお,出所後も自動車を運転する意思があるという者は64.3%である。

IV-60表 交通事犯受刑者の出所時の状況(昭和59年7月〜60年二月)

 次に,上記施設のうちの代表的な施設である市原刑務所が行った再犯調査の結果の一部を紹介すると,次のとおりである。
 同刑務所の昭和45年1月1日から56年末までの全出所者6,143人のうち,57年4月末までに行刑施設に再び収容された者は191人(3.1%)であった。また,この191人のうち,交通事犯で再入所した者は122人(以下「A群」という。),その他で入所した者は69人(以下「B群」という。)であった。さらに,A群の内訳は,道路交通法違反のみで再入所した者85人,同違反と交通関係業過による者25人,交通関係業過のみによる者12人であり,B群の再犯罪名は,財産犯24人,覚せい剤事犯19人,粗暴犯18人,凶悪犯3人,性犯罪3人,その他2人となっている。
 両群の属性等について見ると,平均年齢はA群(28.1歳)の方がB群(26.5歳)よりも高く,平均知能指数はA群(84.8)の方がB群(90.0)よりも低く,教育程度もA群(高校卒業以上28%)の方がB群(同33%)よりも低い。また,再犯までの平均期間はA群(26.3か月)の方がB群(33.1か月)よりも短く,その内訳を見ると,122人のうち交通関係業過のみによる再入所者を除く110人中,一つの刑のみで入所していた者の再犯期間は30.1か月,交通事犯にかかる執行猶予取消刑が付加されて二つ以上の刑が執行されていた者の再犯期間は18.4か月であり,道路交通法違反を重ねて入所する者は,出所して短期間で再犯しやすいことを示している。
 なお,この調査の結果の総括において,「最も再犯率の高い道路交通法違反常習者は,無免許・飲酒運転が主で,これらの者は,受刑期間も短く,交通法規を軽視し,車の便利さという誘惑に負けて過ちを繰り返す。彼らに共通する性格特性は,安易さ,意志の弱さ,見通しの甘さなどにあるように思われる。」と述べられており,短い刑期の間に彼らをいかにして矯正するかが大きな問題である。