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 昭和60年版 犯罪白書 第4編/第2章/第2節/2 

2 罰金・拘留・科料

 前記調査対象とした1万4,134人の罰金・拘留・科料の刑確定者について,確定後3年以内の再犯率及び再犯期間を昭和55年の処分罪名別に見たものがIV-6表である。まず再犯率を見ると,毒物及び劇物取締法違反は45.7%と最も高く,この種薬物事犯に対する処遇として罰金刑(57年の法改正があるまでは罰金刑しかなかった。)の効果は必ずしも大きくないことを窺わせる。この種事犯は少年や若年成人によって犯されるのがほとんどであるが,常習者は他の犯罪,特に覚せい剤事犯へ移行する傾向が見られるだけに,再犯防止のための厳正な処遇が極めて重要であり,57年の法改正により懲役刑が設けられたことの効果が期待される。次に高い再犯率を示すのが,売春防止法違反の32.2%である。売春防止法違反により処罰される者は,売春を行う婦女自身であることは極めてまれで,売春の周旋を行ったり,周旋の目的で人を売春の相手方となるよう勧誘したり,婦女に売春を行う場所を提供したり,婦女に売春することを約束させて雇用する等の行為を行った者が大部分であり,いわゆる営業犯的なものが中心となっている。それだけに,この種事犯の犯罪者に罰金刑のみをもって臨む場合には,より高額の罰金としなければ再犯防止効果を期待し得ないように思われる。この種事犯については,60年2月に施行された風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律(旧風俗営業等取締法の改正法)による規制強化の効果も期待される。このほか,再犯率の高いものとして,凶器準備集合(31.3%),器物損壊(30.8%),脅迫(27.3%),暴力行為等処罰法違反(24.5%),暴行(22.0%),傷害(20.1%)等のいわゆる粗暴犯と呼ばれる罪種がある。この種事犯者は,元来強い粗暴犯的傾向を持っていることが多く,同種の再犯に至りやすいものと考えられる。

IV-6表 昭和55年罰金・拘留・科料処分者の再犯率及び再犯期間

 次に,同表によって再犯期間を見ると,おおむねほとんどの罪名について,2年以内の各区分に比べると,2年を超え3年以内の区分では再犯率が減少している点は,既に総説で指摘したところと同様であり,罰金・拘留・科料の処分を受けた者についても,処分後2年以内が再犯上の危険期間であるということができよう。各罪名について見ると,毒物及び劇物取締法違反では,6月以内に再犯刑の確定した者が昭和55年の処分者の21.6%にも達しており,再犯速度の点からしても,この種事犯者に対する罰金刑の再犯防止効果の低さを窺わせる結果となっている。
 IV-7表は,上記再犯者について昭和55年の処分罪名別に再犯罪名を見たものである。ここでも第一に注目されるのは毒物及び劇物取締法違反であって,同一罪名の再犯に至った者が70.4%と極めて高率で他を圧しており,同種罪名の再犯に至った者の7.1%(これは覚せい剤取締法違反あるいは大麻取締法違反が大部分である。)と合わせると,再犯者の77.5%が再び薬物犯罪に陥っていることが分かる。55年の処分罪名と再犯罪名について,第二に,強い関係を示すのが,売春防止法違反と公然猥褒等で,同一罪名の再犯を犯している者は,それぞれ62.1%,52.8%となっている。売春防止法違反の大・部分がいわゆる営業犯的であることは前述したとおりであるが,ここに表れている公然猥褻等もポルノ雑誌販売のような営業犯的なものが主であり,営業犯の再犯防止に効果的な処遇研究の必要性が,この面からも痛感される。第三に注目されるのは賭博であって,55年の処分罪名と再犯罪名の一致率は49.2%となっている。再犯率のところでは述べなかったが,再犯率も賭博では21.4%とかなりの高い率を示している。この種事犯の内容も,ゲーム機賭博やいわゆる暴力団によって主催される賭博であることが多く,営業犯的なものであり,売春防止法違反や公然猥褻等について述べたのと同じ問題がある。さらに注意しておく必要があるのは,傷害,暴行,脅迫であって,これ,らは他の罪名に比較すると同種罪名の再犯に至る者の比率が高く,同一罪名と同種罪名の再犯を合わせると,傷害では48.0%,暴行では53.2%,脅迫では47.7%となっている。脅迫,暴行及び傷害は相互に同質性の強い犯罪であって,いずれも犯人の粗暴性の発現の仕方の相違にすぎない面があり,この・ような結果となって表れるものと思われる。

IV-7表 昭和55年罰金・拘留・科料処分者の再犯罪名

IV-8表 昭和55年単純執行猶予者の再犯率及び再犯期間