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 昭和60年版 犯罪白書 第1編/第2章/第2節/2 

2 収賄事犯

 公務員犯罪の中でも,収賄事犯は,公務執行の公正に対する国民一般の不信を招き,遵法意識を低下させるなど,その及ぼす影響が深刻かつ広範である。しかし,この種事犯は,収賄者,贈賄者の双方が罰せられ,特定の被害者が存在しないこと等も手伝って,極めて潜在性が強く,その取締りも困難で,相当数の暗数があると考えられる。このように検挙が困難なため,犯行と検挙の時間的間隔が長くなるので,本項では,長期的にとらえた検挙状況の推移を見ることとする。
 I-25表は,昭和50年から54年までの5年間(以下本項において「前期」という。)と55年から59年までの5年間(以下本項において「後期」という。)にそれぞれ収賄罪で検挙された公務員(公社公団職員などの,いわゆる「みなす公務員」を含む。)を,所属別に,上位10位まで掲げて比較してみたものである。検挙人員総数について見ると,後期は,前期に比べて124人(10.5%)減の1,061人となっている。公務員の種類別では,前期は3位まで,後期は4位までを地方公務員が占めている。また,前期,後期で順位が逆転しているものの,1位と2位は土木・建築関係の地方公務員及び地方公共団体の各種議員であって,この両者が検挙人員総数に占める比率は,前期で45.1%,後期で52.4%に達している。国家公務員について見ると,前期は,建設省関係が24人で6位,運輸省関係が22人で7位,郵政省関係及び労働省関係が共に21人で8位,文部省関係が16人で10位であったが,後期は,農林水産省関係が28人で4位,建設省関係が13人で8位,文部省関係が12人で9位,労働省関係及び厚生省関係が共に10人で10位となっている。
 最近の収賄事犯の特徴を,警察庁刑事局の資料によって見ると,態様としては,依然として各種土木建築工事の施行をめぐる事犯が最も多く,各種の許可・認可等をめぐる事犯も増加してきている。また,昭和59年中に警察が検挙した事件の賄賂総額は4億137万円(前年より1億9,767万円,97.0%増),収賄者1人当たりの賄賂額は222万円(前年より130万円,141.3%増)に達しており,賄賂額の高額化が著しい。

I-25表 収賄公務員の所属別検挙人員(昭和50年〜54年,55年〜59年)

 この種事犯の発生を防止する最良の方策は,検挙の徹底にあり,更に厳正な刑罰を科することにあると考えられる。I-26表は,収賄事件の第一審における科刑状況を見たものである。昭和58年中に懲役刑に処された者は165人で,そのうち懲役1年以上の刑に処された者の比率は過去5年間で最高の68.5%となっている。また,執行猶予率も,54年から57年までは94.0%から95.2%の間で推移していたが,58年は84.8%へと急低下している。これに伴って,実刑人員も57年の9人から25人へと急増しているが,その刑期を見ると,懲役3年を超え5年以下が2人,3年が5人,2年以上3年未満が8人1年以上2年未満が7人,6月以上1年未満が3人となっている。

I-26表 収賄事件の第一審科刑状況(昭和54年〜58年)