前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和60年版 犯罪白書 第1編/第1章/第2節/2 

2 各特別法犯の動向

 特別法犯のうち,交通関係及び薬物関係は本編第2章で,外国人関係については本編第5章でそれぞれ取り上げるので,ここでは,保安関係,財政経済関係,風俗関係及び労働者保護関係の各特別法犯について,その動向及び昭和59年における特徴を概観する。
 (1)保安関係
 I‐12表は,最近5年間における保安関係の特別法犯の動向を見たものである。銃砲刀剣類所持等取締法違反及び火薬類取締法違反は一貫して減少を続け,昭和59年の火薬類取締法違反は55年の約半数となっている。一方で軽犯罪法違反は,57年には減少しているが全体的には増加傾向にあり,59年は55年の2倍に近い数を示している。酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律違反は,59年は前年に比べて若干の減少を示している。

I-12表 保安関係特別法犯の検察庁新規受理人員(昭和55年〜59年)

 (2)財政経済関係
 I-13表は,最近5年間における財政経済関係の特別法犯の動向を見たものである。昭和59年においては,法人税法違反及び関税法違反が前年より増加し,その他はいずれも前年より減少している。
 I-14表は,最近5年間の各会計年度に,国税庁から検察庁に告発された所得税法違反及び法人税法違反について,告発の件数・脱漏所得額及び脱税額を見たものである。昭和59会計年度においては,告発件数は所得税法違反が54件(前年比17件減),法人税法違反が117件(同2件減)と,いずれも前年度より減少したが,脱漏所得額及び脱税額では,所得税法違反は総額で前年度より減少したものの1件当たりの額では,脱漏所得額が2億6,400万円(同5.6%増),脱税額が2億1,700万円(同4.3%増)と前年度より増加しており,また,法人税法違反は,脱漏所得額が総額で339億8,100万円(同26.3%増),1件当たりで2億9,000万円(同28.3%増),脱税額が総額で192億5,600万円(同30.0%増),1件当たりで1億6,500万円(同33.1%増)といずれも前年度よりも増加している。さらに,法人税法違反の59年度の脱漏所得額及び脱税額は,総額でも,1件当たりの額でも,過去5年間の最高となっている。

I-13表 財政経済関係特別法犯の検察庁新規受理人員(昭和55年〜59年)

I-14表 所得税法違反及び法人税法違反事件の告発の件数・脱漏所得額及び脱税額(昭和55〜59各会計年度)

 告発された事件についてその違反業種を見ると,遊技場が54件と最も多く,以下,製造業25件,小売業,建設業及び料理・旅館・飲食業が各14件,卸売業10件,不動産業9件,医療業8件等の順となっている。
 脱税の手段・方法は,経済取引の複雑化,多様化に伴い,一段と複雑巧妙化しているが,その手口は,製造業,卸売業及び不動産業では売上除外と架空原価が主であり,小売業,遊技場及び料理・旅館・飲食業では売上除外が主で,建設業では架空原価が主体となっている。
 脱税によって得た利益の留保形態は,従来どおりその大半が預貯金,有価証券,不動産となっている。預金による留保状況を見ると,依然として仮名預金にしている場合が多く,告発された事件の別口預金のうち76%が仮名預金,11%が無記名預金である。
 (3)風俗関係
 I-15表は,最近5年間における風俗関係の特別法犯の動向を見たものである。売春防止法違反及び風俗営業等取締法違反は,昭和56年から減少していたところ,58年から再び増加に転じており,殊に59年の売春防止法違反は過去5年間の最高となっている。これに対し,児童福祉法違反は前年より若干減少し,公営競技取締法規の違反(競馬法,自転車競技法及びモーターボート競走法の各違反で,その大部分は私設馬券等の発売,いわゆるのみ行為及びその相手方となる行為に関するものである。)は,減少傾向が更に進み,59年は55年の半数以下となっている。

I-15表 風俗関係特別法犯の検察庁新規受理人員(昭和55年〜59年)

 (4) 労働者保護関係
 昭和55年以降の5年間における労働者保護法規違反の検察庁新規受理人員を見ると,I-16表のとおりである。労働基準法違反は前年より減少し,労働安全衛生法違反は一貫して減少を続けている。これに対し,船員法違反は56年から連続して増加傾向にあり,職業安定法違反は59年には前年の2倍を超える数を示している。

I-16表 労働者保護法規違反の検察庁新規受理人員(昭和55年〜59年)

 法務省刑事局の資料により,労働基準法違反,労働安全衛生法違反及び職業安定法違反について,その違反条項別の比率を見ると,労働基準法違反では,昭和59年の新規受理人員中,24条違反(賃金の支払いに関するもの)が54.0%を占め,62条違反(深夜業に関するもの)が25.7%であり,この両者で約8割を占めている。次に,労働安全衛生法違反では,59年の新規受理人員中,20条及び21条違反(危険防止のため事業者の講ずべき措置に関するもの)が62.4%,61条違反(一定の危険業務に無資格者を就労させることの禁止)が14.7%となっている。職業安定法違反では,59年の新規受理人員中,32条及び33条違反(無許可の職業紹介事業に関するもの)が4.5%,44条違反(労働者の供給事業の禁止に関するもの)が6.0%で,63条違反(暴力的方法あるいは有害業務に就かせる目的で行う労働者募集等に関するもの)が89.3%となっている。