次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和60年版 犯罪白書  

はしがき

 この白書は,昭和59年を中心とした最近の犯罪動向と犯罪者処遇の実情を概観するとともに,一つの試みとして,刑事司法の各段階ごとに見た犯罪者の処遇後3年間の再犯状況を総合的に検証することにより,刑事司法に関係する諸機関の犯罪者処遇についての機能と効能を分析解明し,併せて再犯防止上の問題点を探ろうとしたものである。
 我が国においては,戦後40年の間に,急激な技術革新・経済の発展,これに伴う社会の変動,そして市民の価値観や行動様式の大きな変化等を経験してきたのであるが,それにもかかわらず,最近の犯罪情勢は,若干の起伏を示してはいるものの,全体としてはおおむね安定した状況下にあるといえる。
 このことは,我が国の文化,伝統,国民性,立地条件等様々な要因が影響しているものと考えられるが,その大きな要因として,刑事司法に関係する諸機関がその時々の社会情勢を踏まえて適切かつ妥当な犯罪者処遇を行ってきたことと,これに対する市民の信頼と積極的な協力があったことをあげることができよう。
 しかしながら,その一方,交通関係業過を除く刑法犯の認知件数は,近時増加の傾向にある上,犯罪累行者による再犯も減少する傾向を示してはいない。こうしたすう勢は,刑事司法に関係する諸機関に犯罪者処遇についてのより適切かつ積極的な対応を迫るものであり,同時に犯罪者がやがて復帰すべき社会,特に犯罪者と密接な関係を有する地域社会の人々による,犯罪者への一層の理解と協力の必要性を端的に示すものといえよう。けだし再犯の防止と犯罪者の円滑な社会復帰は,刑事司法に関係する諸機関と市民との密接な協力があってこそ初めて実現し得るものだからである。このような観点から,本書では「再犯防止と市民参加」の副題の下に,犯罪者処遇への市民参加の実情をも広く取りまとめて紹介することとした。
 戦後40年目の節目に当たる今日,改めて刑事司法の各段階の機能を分析し,その効能を測りながら,各処遇への市民参加の実情を概観することは,次の新たな時代にとっても意義あることであろう。
 なお,本書の構成は,全体を4編に分け,第1編では,昭和59年を中心とした最近の犯罪の動向と現況を概観し,第2編では,検察,裁判,矯正,保護の各段階における犯罪者処遇の実情を紹介し,第3編では,少年非行の推移と現況及び非行少年の処遇の実情について記述し,第4編では,前述の再犯防止と市民参加について考察している。本書が,刑事政策の進展について何ほどかの寄与をなし得れば幸いである。
 終わりに,本書を作成するに当たって,法務省各部局はもとより,最高裁判所事務総局,警察庁その他の機関から協力と援助を受けたことに謝意を表し,併せて,本書に関する責任は,専ら当研究所にあることを明らかにしておきたい。
昭和60年10月
竹 村 照 雄 法務総合研究所長