前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和59年版 犯罪白書 第3編/第3章/第2節/7 

7 保  安

 行刑施設の安全と秩序を維持する作用は,受刑者の処遇が円滑に行われるための基礎となるものである。近年,行刑施設における暴力団関係受刑者(暴力組織に加入している受刑者をいう。)の増加には,顕著なものがある。III-37表は,昭和50年及び最近3か年の各年末における受刑者中に占める暴力団関係受刑者の状況を示したものである。全受刑者に占める暴力団関係受刑者の割合は,前年の26.8%から58年末には27.5%と上昇し,特に,B級受刑者を収容している施設においては39.7%で,受刑者5人に2人は暴力団関係者となっている。

III-37表 暴力団関係受刑者数(昭和50年,56年〜58年各12月31日現在)

 暴力団関係受刑者は,暴力組織への帰属意識が強く,ややもすると,施設内で結束して派閥の勢力を拡大しようと企てたり,社会における派閥間の対立・抗争を施設内に持ち込み,他の派閥と反目対立して重大な事故を引き起こす危険性も高い。また,更生意欲も乏しく,生活態度においても問題のある者が多く,職員に反抗し,他の受刑者を威圧したりして,施設の規律を乱すおそれも多い。暴力団関係受刑者の処遇に当たっては,まず,施設の安全と秩序の維持に格段の注意を払い,受刑者間の人間関係に注意し,必要に応じて分散収容を行うなど,保安及び警備を厳重にして厳正な態度をもって対処している。また,労働の意欲及び習慣を助長する処遇を実施し,暴力団関係組織からの離脱について,関係機関とも緊密な連携を保って,必要な措置をとるなどの施策が講じられている。
 また,最近の覚せい剤事犯受刑者の著しい増加に対応して,それらの者の再犯防止方策の充実は,処遇の重点事項とされているが,覚せい剤事犯受刑者には,暴力団と関係のある者が多く,処遇に当たって保安上の問題が少なくない。

III-38表 行刑施設事故発生状況(昭和40年,50年,56年〜58年)

 III-38表は,行刑施設において発生した逃走等の主要な事故の発生状況を示したものである。昭和58年の事故発生件数は18件で,収容人員の増加,とりわけ暴力団関係受刑者の増加という状況の下にありながら,事故の発生件数は,前年より1件増加したにとどまっている。ところで,40年代の事故発生件数は,最高59件(41年),最低34件(46年)であったが,50年代に入ってからは,50年と52年の各28件を除き,14件(54年)ないし18件(58年)という低い数値で推移しており,保安面は一応平穏であると言える。