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 昭和59年版 犯罪白書 第2編/第3章/第4節/1 

1 CD犯罪

 前述のCD機は,遠隔操作されるコンピュータの端末機であり,CD犯罪はコンピュータ犯罪の一種としての性格も持っている。現代の豊かな社会の実現,維持に貢献する技術革新の一つである,コンピュータの普及に伴い,近年,このコンピュータ機構を悪用する犯罪が多発している。我が国においてこれまで認知されたコンピュータ犯罪としては,CD犯罪のほかにも,預金元帳や登録の台帳などに不正なデータを入力して虚偽の回答を出させ,不法な利益を得るもの,犯行を隠ぺいするため台帳に当たるコンピュータに不正データを入力するものなども見受けられるが,現に認知されたものの大部分は,CD犯罪である。

II-51表 CD犯罪の認知・検挙件数(昭和54年〜58年)

 我が国の金融機関に,最初にCD機が登場したのは,昭和44年のことであるが,その後のCD機の普及には目を見張るものがある。58年9月末現在において,設置されたCD機台数は約3万3,800台,発行済キャッシュ・カード枚数は約8,932万枚に達している。
 II-51表は,最近5年間のCD犯罪の認知件数及び検挙件数の推移を見たものであるが,認知件数は,昭和54年の187件から58年の642件へ3.4倍に増加している。50年の8件と比較すると実に80.3倍の激増である。
 上記のCD犯罪のうちには,みのしろ金や喝取金を自己口座等に振り込ませた上,自己のキャッシュ・カード等を使用してCD機から現金を引き出すなどの形でCDシステムを利用する場合も含まれているが,その大部分は,窃取したり拾得したりして不正に取得したキャッシュ・カードを使用してC D機から現金を窃取する事犯であり,昭和58年に認知されたCD犯罪642件のうち,564件(87.9%)はこの範ちゅうに属する。
 ところで,キャッシュ・カードが盗難,拾得等にかかるものであったとしても,磁気ストライプ部分に印磁された暗証番号が入力されると,CD機は自動的に預金払戻しに応じる装置になっており,暗証番号を探知されたら防衛し難いという弱点を突くところに,この犯行の特徴がある。
 昭和58年に認知されたCD犯罪のうち,犯人がキャッシュ・カードを不正に使用して現金を引き出そうとした564件について見ると,窃取したカードを使用した事犯が501件(88.8%),拾得して使用したものが35件(6.2%),他人から預かったり,又は喝取したりしたカードを使用した事犯が28件(5.0%)となっている。564件について,犯人が暗証番号を探知した経緯を見てみると,「面識があり,以前から暗証番号を知っていた」が169件と最も多く,次いで「暗証番号推測」の167件,「キャッシュ・カードと暗証番号を同時に入手」の133件などとなっている。暗証番号は,肉眼では判読不可能となっていることから,被害者側が暗証番号の漏えいのないように配意したり,推測されにくい暗証番号を選定すれば,この種事犯は,かなり防止できるものと思われる。