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 昭和59年版 犯罪白書 第2編/第3章/第3節 

第3節 保険関連犯罪

 保険には,個人や企業がそれぞれの安全を図るために利用する生命保険と損害保険のほかに,政府や地方公共団体が社会福祉政策の遂行のために管掌する諸種の社会保険がある。近年の我が国における保険の普及には目覚ましいものがあり,これを生命保険について見ると,昭和57年における保有契約高は,総額ではアメリカに次いで世界第2位,人口1人当たり平均額では世界第1位となっている。損害保険について見ると,その元受収入保険料の額は,人口1人当たり平均額では世界第6位であるが,総額ではアメリカ,ドイツ連邦共和国に次いで世界第3位となっており,その保険種目別構成は,自動車保険が5割弱,火災保険が3割弱である。社会保険を見ると,健康保険をはじめとする各種医療保険,厚生年金をはじめとする各種年金保険,労働保険等が完備しており,ほとんどすべての国民がいずれかの保険に加入している。
 このような保険制度の発展普及に伴って,これを悪用して不法の利益を得ようとする犯罪や,多額の保険金の入手を目的とする凶悪な犯罪も多発化の傾向を示している。警察庁の統計によれば,全国の警察で検挙された殺人事件のうち保険金目的によるものは,昭和49年から53年までの5年間で26件であったのに対し,54年から58年までで約7割増の44件となり,放火事件のうち保険金目的によるものは,49年から53年までが66件であったのに対し,54年から58年までで約7割増の112件となっている。
 法務総合研究所では,こうした保険金目的の犯罪の多発化傾向にかんがみ,昭和54年1月1日から58年12月31日までの間に,全国の検察庁において起訴された保険金目的の犯罪のうち,資料を入手できたものについて,若干の分析を試みた。
 この調査資料に表れた犯罪態様を見ると,数的に最も多いのは,交通事故による物的損害や人身損害を偽装した保険金詐欺である。また,凶悪なものとしては,生命保険金目的の殺人及び火災保険金目的の放火がある。そこで,この三者について,若干の分析結果を述べる。
 なお,その他の態様で目につくものとして,民間の保険では,故意に自らを傷つけて傷害保険金を詐取するもの,家族などが重篤な疾病に罹患しているのを秘匿して生命保険契約を締結し後日その保険金を入手するもの,盗難を偽装するもの,故意に船舶を沈没させて事故を偽装するもの等がある。社会保険では,故意の自傷又は他の事故による受傷を労働災害によるものと偽った労働者災害補償保険法による給付金受領名下の詐欺,医師による保険診療報酬(健康保険等)の水増し請求による詐欺,雇用保険法上の諸種の給付金受領名下の詐欺等がある。