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これまで我が国及び欧米4箇国の暴力犯罪の動向を個別に見てきたが,ここでは,国際的視野から見た我が国の暴力犯罪の動向の特徴を明らかにするため,欧米4箇国と若干の対比・検討を行うこととする。言うまでもなく,各国は,法制や統計の方法を異にしており,正確な国際比較は困難であるが,殺人,強盗,強姦,傷害等の暴力犯罪は,法制や統計方法の相違によって受ける影響が比較的少ないので,大まかなすう勢を比較することは可能である。
II-85表は,1981年における殺人,強盗,強姦及び傷害の認知件数等を,我が国及び欧米4箇国について示したものである。認知件数で見ると,各罪名ともアメリカが圧倒的に多く,我が国は,強盗,傷害で最も少なく,殺人,強姦では二番目に少なくなっている。発生率(人口10万人当たりの認知件数)では,我が国は欧米4箇国に比べて各罪名とも最も低い。これを罪名別に我が国との対比で見ると,殺人では,アメリカは6.5倍,ドイツ連邦共和国は3.2倍,フランスは2,5倍,イギリスは2.O倍,強盗では,アメリカは125.3倍,フランスは38.2倍,強姦では,アメリカは16.2倍,ドイツ連邦共和国は5.1倍,傷害では,ドイツ連邦共和国は13.7倍,アメリカは12.8倍などとなっている。次に,1972年の認知件数を100とする指数で増加率を見ると,1981年に我が国では殺人85,強盗93,強姦56及び傷害60と軒並み減少しているのに対し,欧米4箇国では,イギリス及びドイツ連邦共和国の強姦が減少した以外,いずれの罪名においても増加している。このように,我が国における近時の暴力犯罪の水準は,欧米4箇国と対比した場合,その発生率及び増加率の双方において,かなり低いことが明らかである。検挙率については,我が国は,強姦の検挙率がイギリスより若干低いほかはすべて最高である。特に,強盗は,被害者と面識のない犯人による場合がほとんどであることから検挙の困難性が高いと言われているが,我が国の検挙率は81.5%であり,フランスの23.7%,アメリカの24%,イギリスの24.7%,ドイツ連邦共和国の52.3%に比べ,際立って高い。 II-85表 暴力犯罪の国際比較(1981年) II-86表は,我が国並びにアメリカ,イギリス及びドイツ連邦共和国における,殺人,強盗,強姦及び傷害についての有罪率を見たものである。有罪率は各国における刑事司法の法制の在り方によって影響されるところが大きいと思われるが,我が国のそれは3箇国のそれと比較して著しく高い。暴力犯罪と銃器との関係も,犯罪対策上重要課題とされている。II-87表は,1981年における我が国及び欧米4箇国の殺人,強盗及び傷害について銃器が使用された比率を見たものである。銃器が使用された比率はすべての罪名でアメリカが最も高く,我が国は最も低い。殺人での銃器使用比率を我が国との対比で見ると,アメリカは148.9倍,フランスは8.4倍,ドイツ連邦共和国は3.3倍,イギリスは1.5倍となっている。 II-86表 暴力犯罪における有罪率(1981年) II-87表 暴力犯罪における銃器使用率(1981年) II-6図は,我が国並びにアメリカ,イギリス及びドイツ連邦共和国の殺人罪における犯人と被害者の関係を比較したものである。親族間の殺人が全体に占める比率は,我が国及びイギリスにおいて高く,我が国はアメリカの約2.4倍もあり,他方,面識のない者の間での殺人の占める比率は,我が国が最も低い。このことから,我が国では,アメリカ,イギリス及びドイツ連邦共和国に比べて,いわゆる行きずりの無関係の者による殺人が比較的少ないことがうかがわれる。以上の比較によると,我が国の暴力犯罪の発生率や増加率は欧米諸国と比べて一様に低いことが認められる。その理由について詳説することは難しいが,前述の特別調査の結果等を併せて考えると,例えば,暴力犯罪に関して検挙率及び有罪率がともに欧米諸国に比べ,際立って高いこと,犯人の自首による検挙の比率が高いこと,自白率が起訴時において8割を超えていること,示談成立の率が高いこと,第三者の通報によって犯人が検挙される比率が高いことなどが指摘できる。もちろんこれらの要素は暴力犯罪の水準を低くするのに役立つすべてを尽してはいない。 II-6図 殺人における犯人と被害者との関係 他にも多くの角度から様々な視点が想定されるが,一般に我が国の犯罪水準が低い理由としては,従来から様々の説明がなされている。すなわち,適切な立法・法規制が行われ,捜査,検察,裁判,矯正及び保護の各段階を通じて刑事司法制度が有効に機能していること,我が国固有の社会的・文化的特質に由来する,民族的・文化的同質性,家族・地域社会・企業など社会集団の連帯性と団結性の強固さ,経済生活・社会生活の安定,教育水準の高さ,恥と名誉を重んじる東洋的倫理感の強さ,一般的に遵法意識が強く,犯罪捜査機関に対し協力的であることなどが挙げられてきた。この説明には,前記の指摘と一部重なるものもあるが,おおむね文化的,社会的,制度的なものであって,これを更に具体化して犯罪抑制との関連を明確にすることは,今後の調査や研究に待つこととしたい。さらにまた,我が国の都市化・工業化に伴う社会変動によって,これらの要因がどのように変化し,犯罪の発生にどのような影響を及ぼすかなどについても,今後の推移を見守る必要がある。 |