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 昭和58年版 犯罪白書 第2編/第1章/第6節/2 

2 保険金目的の殺人事件

 近年,我が国における保険の普及には著しいものがある。このような保険制度の普及を背景として,生命保険金の取得を目的とした殺人事件が多発し,社会の注目を集めるに至っている。
 II-31表は,昭和48年以降10年間における生命保険金の取得な目的とした殺人事件の検挙件数・検挙人員及び殺害人員を見たものである。検挙件数,検挙人員共に56年は激減したが,57年には,検挙件数10件,検挙人員19人と著しく増加しており,今後の動向が注目される。
 法務省刑事局に報告のあった昭和57年中に起訴された保険金目的の殺人事件の犯行の手段や動機等を見ると,単純な事故死や交通事故死を偽装しているものが多く,動機については,多額の負債の弁済のためや事業の運転資金欲しさというものが多い。上記報告事件のうち,保険金騙取に成功したのは3件で,騙取金額の最高は1,200万円余であり,1件平均で900万円余である。
 昭和57年中に起訴された主な事例としては,交通事故を装った保険金目的殺人事件(愛人関係の2人が共謀して,保険金騙取の目的で結婚を偽装し,結婚相手の男性に生命保険をかけ,新婚旅行直後,自動車内で被害者の首を締めて仮死状態に陥らせた後,車内に火をつけ,被害者を自動車もろとも崖下に転落炎上させて殺害し,保険金1,000万円を騙取したもの。松江地検),フィリピンにおける保険金目的殺人事件(4人が共謀して,被害者をフィリピンの海へ水泳に誘い出した上,海中に押え込むなどして殺害し,その後,遊泳中の事故として保険金4,000万円を騙取しようとしたもの。那覇地検)などがある。