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 昭和58年版 犯罪白書 第1編/第3章/第2節/3 

3 精神障害のある犯罪者の特色

 法務総合研究所では,法務省刑事局が精神障害のある犯罪者の実態を知るために調査収集した被疑者2,644人(昭和54年1月1日から57年12月31日までの4年間に全国の地方・区検察庁で不起訴処分に付された被疑者のうち,犯行時に心神喪失と認められた者及び55年7月1日から57年12月31日までの2年6か月の間に心神耗弱と認められて起訴猶予となった者)及び被告人489人(54年1月1日から57年12月31日までの間に第一審裁判所で心神喪失が認定されて無罪となった者及び心神耗弱が認定されて刑の減軽がなされた者)の合計3,133人についての資料を分析した。

I-65表 罪名・精神障害名別人員(昭和54年〜57年の累計)

 (1)罪名・精神障害名
 I-65表は,上記対象者の罪名と精神障害名との関係を見たものである。総数について,精神障害名別の構成比を見ると,精神分裂病が54.6%で最も多く,以下,アルコール中毒の13.1%,そううつ病の7.0%,覚せい剤中毒の6.3%の順となっている。各罪名について,精神障害名別構成比を見ても,精神分裂病は,おおむね半数を超えており,殺人で56.6%,強盗で53.9%,傷害で60.0%,強姦・強制わいせつで55.1%などとなっている。
 (2)処分結果
 I-66表は,上記対象者について,各処分結果ごとに,罪名別及び精神障害名別の内訳を見たものである。総数の罪名別分布では,殺人が24.1%で最も多く,以下,放火の15.9%,傷害の13.6%の順となっている。心神喪失により不起訴処分に付された者及び無罪を言い渡された者について見ると,罪名別では殺人(不起訴36.0%,無罪37.1%),精神障害名別では精神分裂病(不起訴65.0%,無罪64.5%)がそれぞれ最も高くなっている。心神耗弱により起訴猶予とされた者について見ると,罪名別では傷害(16.5%),精神障害名別では精神分裂病(51.8%)が最も高く,心神耗弱により有罪ではあるが刑を減軽された者の比率は,罪名別では殺人(25.3%),精神障害名別ではアルコール中毒(23.7%)が最高となっている。
 (3)本件罪名と直近前科・前歴の罪名
 I-67表は,上記対象者について,前科・前歴を有する1,408人中,直近前科・前歴の事件の際に精神障害が認められた365人について,本件罪名と直近前科・前歴の罪名との関係を見たものである。本件罪名と直近前科・前歴の罪名が同じ者は,殺人で41人中12人(29.3%),傷害で58人中16人(27.6%),強姦・強制わいせつで14人中5人(35.7%),放火で34人中13人(38.2%)となっている。なお,他人の生命・身体に対して危害を加える犯罪である殺人,傷害及び同致死の三つの罪名を合わせて本件と直近前科・前歴の合致状況を見ると,105人中45人(42.9%)となっている。

I-66表 罪名・精神障害名別処分結果(昭和54年〜57年の累計)

I-67表 本件罪名と直近前科・前歴罪名との関係(昭和54年〜57年の累計)

 (4)犯行時の治療状況
 I-68表は,上記対象者中,犯行時における治療の有無が明らかな2,776人について,犯行時までの治療状況を罪名別に見たものである。総数で見ると,現に治療中の者が29.6%,過去に治療歴を有する者が31.8%,全く治療を受けたことがない者が38.7%となっており,犯罪を犯した精神障害者のうち,犯行時に治療を受けていない者,すなわち後二者の合計が70.4%に及んでいる。

I-68表 罪名別犯行時の治療状況(昭和54年〜57年の累計)

 (5)犯行前の入院歴・措置入院期間・出院時の病状・出院から犯行までの期間
 I-69表は,上記対象者中,重大犯罪(殺人,強盗,傷害,傷害致死,強姦・強制わいせつ及び放火)を犯した1,962人について,精神障害名別に入院歴の有無を見たものである。総数で見ると,入院歴のある者が999人(50.9%),入院歴のない者が934人(47.6%),入院歴の有無が不明の者が29人(1.5%)となっている。入院歴のある者について,精神障害名別の構成比を見ると,精神分裂病で61.8%,そううつ病で37.6%,てんかんで38.7%,アルコール中毒で46.6%などとなっている。また,措置入院歴のある者は総数で155人であるが,そのうちの73.5%(114人)は精神分裂病である。措置入院の回数について見ると,155人中,1回の者が111人,2回の者が25人,3回以上の者が19人となっており,延べ回数は226回となっている。

I-69表 精神障害名別入院歴(昭和54年〜57年の累計)

 I-70表は,措置入院歴を有する155人,延べ回数226回について,措置入院の期間を精神障害名別に見たものである。総数で見ると,6月以下が47.8%(108回)で最も多く,次いで,1年を超え3年以下が19.9%(45回)などとなっており,約半数が入院後6月以内に入院措置を解除されており,1年以内に入院措置を解除された者が66.8%に及んでいる。精神障害名別に見ると,入院後1年以内に入院措置が解除された者は,精神分裂病で63.0%,アルコール中毒で93.8%などとなっている。

I-70表 措置入院歴者の措置入院期間(昭和54年〜57年の累計)

 I-71表及びI-72表は,入院歴のある者のうち,本件犯行前に退院した1,476人について,直近退院時における病状及び直近退院時から本件犯行までの期間を,罪名別に措置入院とその他の入院とに分けて見たものである。直近退院時の病状について,総数で見ると,措置入院では,不明を除く153人中,28人(18.3%)が,その他の入院では,不明を除く890人中,242人(27.2%)が未治癒で出院している。同様の方法で罪名別に未治癒で出院した者の比率を見ると,殺人においては,措置入院の場合19.4%,その他の入院の場合23.6%,強盗においては,措置入院で40.0%,その他の入院では28.6%,強姦・強制わいせつにおいては,措置入院で75.0%,その他の入院では40.7%,放火においては,措置入院で18.8%,その他の入院では20.1%などとなっている。次に,直近出院から本件犯行までの期間を見ると,措置入院の総数では,6月以下が44.0%,6月を超え1年以下が16.0%,その他の入院では,6月以下が32.1%,6月を超え1年以下が17.6%であり,措置入院では6割が,その他の入院では約5割が出院後1年以内に精神障害に起因する犯罪を犯している。罪名別に出院後1年以内に本件犯行に及んだ者の比率を見ると,殺人の措置入院では51.4%,その他の入院では47.1%,放火の措置入院では66.7%,その他の入院では50.8%などとなっている。

I-71表 入院歴者の直近退院時における病状(昭和54年〜57年の累計)

I-72表 入院歴者の直近退院時から犯行時までの期間(昭和54年〜57年の累計)

I-73表 罪名・精神障害名別犯行後の治療状況(昭和54年〜57年の累計)

 このように,未治癒で出院している者が2割を超えていることに加え,出院後1年以内に犯行に及んでいる者が5割を超えていることは,犯罪防止の面から見ると,出院の当否あるいは出院後の医療・保護などに問題があるように思われ,これらについて,効果的な方策を講ずる必要性が痛感される。
 (6)犯行後の精神衛生法による取扱い状況
 I-73表は,上記対象者の犯行後の治療状況を罪名別及び精神障害名別に見たものである。罪名別に見ると,措置入院となった者は,殺人で59.8%,強盗で48.4%,傷害で52.0%,放火で52.3%である。また,犯行後,全く治療を受けていない者が,殺人で44人(5.8%),放火で40人(8.0%),傷害で32人(7.5%),強盗で8人(6.3%)いる。次に,精神障害名別に見ると,措置入院となった者は,精神分裂病で57.1%,そううつ病で39.9%,てんかんで33.3%,アルコール中毒で33.7%,覚せい剤中毒で30.6%などとなっている。