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 昭和58年版 犯罪白書 第1編/第3章/第1節/4 

4 展  望

 我が国の薬物犯罪は,覚せい剤事犯の増加が依然として続いているなど,今後の動向は楽観を許さない状況にある。薬物犯罪の中心となっている覚せい剤事犯を根絶するための方策としては,その供給源を断ち,濫用者の絶滅を期すことを挙げることができる。
 覚せい剤の供給源は,海外からの密輸入であり,それらの密輸入や国内における密売は,ほとんどが暴力団によって行われている。まず,供給を断っためには,そのルートを握る暴力団の壊滅を中心とした密輸入,密売事犯に対する取締りを徹底して行い,厳正な処分がなされることが必要である。次に,濫用者に対しても徹底した検挙と厳正な処理で対処し,その絶滅を期すことである。法務総合研究所が行った覚せい剤事犯再犯者の調査でも明らかなように,覚せい剤はいったん濫用に陥るとその習癖を断つことは困難である。たとえ短期間,拘禁などによって使用が強制的に中止されても,社会に復帰して覚せい剤が入手できる環境に戻ると,再び覚せい剤の濫用を始める者が多く,その習癖を根絶することは容易でないと言えよう。このことからすれば,低下傾向にあるとはいえ,半数に近い高い比率を占めている執行猶予の運用の在り方,短期刑に集中している量刑の在り方などには,なお検討の要があるように思われる。
 覚せい剤事犯の絶滅に最も重要なことは,覚せい剤の害悪について,全国民が自覚と理解を深め,全国民を挙げて追放運動を図ることである。政府においても,昭和45年以降「薬物乱用対策推進本部」を設け,覚せい剤の濫用防止運動を推進しており,57年度においては,「薬物乱用事犯取締強化月間」及び「薬物乱用防止広報強化月間」を指定して,集中的に薬物濫用防止の強化対策を実施している。覚せい剤の絶滅のために,国民一人一人がこれに協力することを期待したい。