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 昭和57年版 犯罪白書 第4編/第5章/第1節/2 

2 薬物犯罪の国際比較

 我が国における覚せい剤事犯を主体とした薬物事犯の激増状況を,我が国以上に薬物禍に苦慮している欧米諸国の動向と対比して検討して見る。
 薬物濫用事犯の取締状況については,各国の薬物事情,法執行機関の検挙方針等の諸要因によって異なるので,単に数字を比較するだけでは,それぞれの国における薬物犯罪の動向と特質とを正確に把握することは困難であるにしても,おおよその状況は知ることができる。前述した諸外国の薬物犯罪の内容等から見ると,アメリカでは,あらゆる種類の危険な薬物が濫用されており,欧州諸国では,あへん,ヘロイン,コカインなどと大麻が濫用されていて,覚せい剤については,濫用薬物として,我が国ほどの重要度を持つまでには至っていないように見える。これは,欧米では,覚せい剤が疲労回復,やせ薬又は抑うつ症の薬として医師の処方によって使用されてきたという経過及び注射による覚せい剤の濫用は比較的新しい現象であり,その量も比較的少ないことなどによるものであろう。
 IV-87表は,各国の公的統計書に基づいて,1976年から1980年までの5年間における麻薬,覚せい剤事犯の検挙人員を,欧米3箇国及び日本について示したものである。
 検挙人員数は,アメリカが圧倒的に多く,1980年においては,ドイツ連邦共和国の約10倍,日本の約26倍,イギリスの約34倍となっている。人口比で見ても,アメリカが最も多く,ドイツ連邦共和国の約3倍,イギリスの約9倍,日本の約14倍となっている。これらの数字を見る限りでは,我が国の薬物犯罪は,量的には,欧米に比べてかなり低い水準にあると言える。しかし,長期間増加傾向を持続していること,5年間の増加率が1.80倍で,ドイツ連邦共和国の1.76倍,イギリスの1.35倍の増加(アメリカは,4.7%の減少)に比べ,増加率が最も高いこと,社会的危険性においてはむしろヘロインよりも危険とさえ言われている覚せい剤が主体となっていることなどにかんがみ,我が国の薬物犯罪は,欧米諸国並みに深刻の度を加えつつあると見ることができよう。

IV-87表 薬物事犯検挙人員及び人口比の国際比較(1976年〜80年)