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 昭和57年版 犯罪白書 第4編/第4章/第3節/1 

第3節 ドイツ連邦共和国

1 概  観

 ドイツ連邦共和国において,薬物犯罪の増加傾向が現れ始めたのは,1960年代に入ってからのことで,それ以前は,一部の者にモルヒネなどの調合薬剤の濫用が見られたにすぎなかった。1960年代に入ると,まず,大麻の濫用,続いて,コカインの濫用が始まり,1970年代に入ると,ヘロインの濫用が加わった。その上,ヘロイン,コカイン,大麻等の薬物濫用は,社会のあらゆる階層に拡散していき,その結果,ヘロイン,大麻等を中心とした薬物犯罪の激増,ヘロインを中心とした濫用者数及び薬物濫用による死亡者数の増加などの傾向が顕著に現れ,近年,薬物問題は,ドイツ連邦共和国における大きな社会問題の一つとなっている。
 IV-74表は,ドイツ連邦共和国における1965年から1980年までの間の薬物犯罪の認知件数及び主な薬物の押収量の推移を見たものであるが,薬物犯罪の激増ぶりがうかがえる。認知件数は,1974年に前年よりやや減少した以外逐年増加し,1980年には,6万2,395件となっているが,これは,1965年の認知件数の約62倍,10年前(1971年)の認知件数の約2.5倍に当たる。主な薬物の押収量の推移を見ると,ヘロインの押収量は,全体として増加傾向にあり,1980年の押収量は10年前の押収量の約90倍に当たる約267kgに達し,コカインの押収量も,ヘロインと同様の傾向を示している。大麻の押収量は,他の薬物と比較して,常にその量が多く,1980年には若干減少したものの,3,200kg余りの多きに及んでいる。
 押収量の激増状況から見ると,最近のドイツ連邦共和国における薬物犯罪は,ヘロイン,コカイン,大麻等の薬物を中心としたものであることを示していると言えよう。
 1980年には,ヘロイン,あへん,コカイン等(ハードな麻薬 harte Drogenと総称されている。)の濫用者数は,前年より4,404人増加して,1万6,776人(うち,ヘロイン濫用者は1万5,448人)に達し,薬物濫用による死亡者数は,494人(うち,ハードな麻薬による死亡者は468人)の多くを数えるに至っている。

IV-74表 薬物犯罪認知件数及び主な薬物の押収量ドイツ連邦共和国(1965年〜80年)

 ドイツ連邦共和国では,戦後,薬物犯罪に対しては,1929年制定のあへん法(Opiumgesetz)などで対処していたが,1960年代後半以後,大麻,へロイン等の薬物犯罪が激増し始め,これに対処できる法改正の必要が生じ,その結果,1972年に麻薬法(Betaubungsmittelgesetz)が制定された。
 麻薬法の内容について,簡単に触れると,同法は,第1条で,規制麻薬として,あへん,ヘロイン,コカイン,大麻等の薬物を列挙したほか,同法規定の条件に合致した場合,施行令により規制外薬物を同法規制麻薬に指定できる権限を連邦政府に与えている。アンフェタミン,メタンフェタミン等の覚せい剤は,同法上規制麻薬として列挙されていなかったが,1972年9月4日連邦政府により,規制麻薬に指定された。
 罰則については,同法第11条に規定されているが,同条規定の違反行為の主なものは,連邦保健庁の許可等のない麻薬の輸出入,収受,製造,販売,譲渡及び所持等で,これら違反行為に対する法定刑については,3年以下の自由刑若しくは罰金,又はこれの併科と定められている。なお,同条は,営利目的で上記違反行為をした場合,成人が18歳未満の者に反復常習的に麻薬を交付又は譲渡した場合など,特別に悪質な行為をした者に対しては,法定刑を,1年以上10年以下の自由刑などと加重している。しかし,同法には,麻薬の使用事犯に関する処罰規定はない。
 上記麻薬法施行後も,ドイツ連邦共和国の薬物犯罪は,増加の一途をたどり,これが深刻な社会問題化したこと,規制麻薬や取締機関等に関する法令が増加し,複雑化したことなどから改正され,新麻薬法が1982年1月1日から施行された。新法については,1972年の麻薬法と比較し,連邦保健庁の許可のない麻薬の輸出入,収受,製造,譲渡及び所持等の違反行為に対する法定刑を4年以下の自由刑又は罰金に引き上げるなど,罰則を強化していること,麻薬犯罪に関する情報提供者に対する刑の緩和又は免除の規定を設けた点などが注目される。