前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和57年版 犯罪白書 第4編/第3章/第3節 

第3節 更生保護

 IV-63表は,昭和31年から56年までの間における薬物事犯による保護観察対象者の新規受理人員の推移を見たものである。保護観察総受理人員のうち,覚せい剤事犯者の占める比率は,32年以降低下したが,45年から増勢に転じ,特に,50年以降の上昇は著しい。56年における覚せい剤事犯による保護観察受理人員は6,197人に達し,総受理人員の11.5%を占めるに至った。毒物及び劇物取締法違反により保護観察に付された者は,56年では2,152人である。また,57年3月末日現在における全保護観察対象者(交通短期保護観察処分少年を除く。)7万2,268人のうち,シンナー等濫用者及びその経験者は8,289人であり,このうち,保護観察処分少年は6,844人,少年院仮退院者は1,231人であり,これを同期における保護観察係属人員に占める比率で見ると,それぞれ18.1%,24.4%に当たる。
 このような薬物事犯による保護観察対象者急増の事態のほかに,例えば,昭和56年に保護観察が終了した覚せい剤車犯の保護観察付執行猶予者1,632人のうち,820人(50.2%)が執行猶予を取り消されているなど,処遇困難者が多いという現下の情勢にかんがみ,薬物事犯者に対する保護観察処遇の強化策が講じられている。すなわち,薬物依存からの脱却を図り,この種事犯の再発を未然に防止することを目的として,個別処遇の強化策としては,[1]保護観察官の直接処遇の充実,[2]保護観察官と保護司との処遇協議の活発化等連携の強化,[3]家庭調整,就業援助など補導援護面での処遇の充実強化,[4]保護司に対する薬物,特に,覚せい剤に関する知識の向上と処遇技術の向上を図るための指導訓練が行われており,また,新しい処遇方法として,[5]シンナー等濫用者及び覚せい剤事犯対象者,特に,若年者に対して集団処遇が実施されている。このほか,刑事司法機関・地方公共団体等関係機関との情報交換及び協力関係の強化,薬物濫用防止のための地域キャンペーン,広報資料等の作成と活用等による多面的な活動も行われている。
 このうち,[1]の保護観察官の直接処遇は,薬物関係事犯者を,前述の第2編第4章第2節における分類処遇のA分類対象として専門的処遇を加えるもののほか,必要に応じて保護観察官自らが担当者として処遇に当たり,社会資源を活用して個別処遇の強化を図っているものとがある。[4]の研修については,「地域別定例研修」の機会に行われるほか,特に,薬物事犯対象者を担当する保護司に対する処遇技法を中心とする研修会が,昭和56年中に,覚せい剤に関しては21回,693人に対して,シンナー等に関しては15回,428人に対して実施され,適正な処遇を行うための担当保護司が選定できる態勢に資している。[5]の集団処遇については,シンナー等濫用者に対しては,IV-64表に示した例のような方法で行われている。覚せい剤事犯者に対しては,保護観察開始期において,おおむね対象者10人から15人位までの小集団を単位として,保護観察官により,覚せい剤の薬理作用,中毒者の実態,取締状況等を内容とする映画を上映した後に,映画の感想,覚せい剤使用の動機,使用に伴って生じた問題,その解決方法,やめた動機,今後の決意等を内容とする集団討議を行い,現在の心境に関する感想文を書かせている。この集団処遇終了後には,個別面接による相談・助言が行われ,当面の個別的な問題に対する指導がなされている。なお,対象者の集団処遇と並行して,家族との座談会が実施されており,薬物依存からの脱却のため,家族の協力の重要性について理解を深めさせている。56年における薬物事犯(シンナー等濫用及び覚せい剤濫用事犯)による保護観察対象者に対する集団処遇実施状況は,実施回数で99回,実施人員で1,245人となっている。

IV-63表 薬物事犯保護観察事件の新規受理人員の推移(昭和31年〜56年)

IV-64表 シンナー等濫用少年に対する集団処遇プログラムの一例