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 昭和57年版 犯罪白書 第1編/第4章/第2節/1 

第2節 罪種別刑執行猶予者の分析

1 窃盗罪

 I-107表は,窃盗罪について,昭和29年以降の科刑状況及び執行猶予率を見たものである。執行猶予率は,29年,30年の42%台から長期的には上昇傾向を示し,41年に50%を超え,44年に最高の55.8%を記録したが,以後やや低下し,51年以降は51%台ないし52%台となっている。執行猶予者中,保護観察に付される者の比率を見ると,現行の保護観察付執行猶予制度の発足した当初である29年及び30年は,それぞれ,5.6%,9.2%と低率であったが,33年以降は各年次とも20%を超え,55年には最高の26.9%を記録した。56年は24.4%となっている。すなわち,最近では,執行猶予者中,約4分の1は保護観察に付されていることになる。
 I-108表は,昭和29年以降55年までの各年次に執行猶予の言渡しを受けた者について,保護観察の有無別に,その取消しの状況を見たものである。まず,保護観察付執行猶予について見ると,34年以前は40%を超えていたが,35年から47年までは30%台で推移していた。しかし,48年に再び40%を超えた後,起伏を示しながらも,執行猶予期間未経過の者を含む52年で,既に42.2%を記録している。なお,52年に執行猶予の言渡しを受けた者のうち,その取消しを受けた者について,取り消されるまでの期間を見ると,1年以内が46.2%,1年を超え2年以内が31.7%,2年を超え3年以内が17.9%,3年を超える者が4.1%となっており,取消しを受けた者の約5割は,1年以内という短期間に執行猶予を取り消されている。また,取消しを受けた者のうち,同一罪名(窃盗)による再犯で取り消された者の比率を見ると,各年次とも,おおむね70%以上となっており,同一罪名の者が圧倒的に多い。
 次に,単純執行猶予を言い渡された者について,その取消しの状況を見ると,昭和33年以前は執行猶予の取消率が20%を超えている年次が多いが,34年以降は10%台で推移している。特に,41年から47年までは,10.7%ないし12.2%と低率であったが,48年以降やや上昇し,52年(執行猶予期間未経過者を含む。)では16.5%となっている。また,取消しを受けた者のうち,同一罪名による再犯で取り消された者の比率を見ると,50年以前は,70%を超えていたが,51年にはやや下降して69.6%となっている。しかし,54年には,再び70%を超えている。

I-107表 窃盗事犯者の科刑状況及び執行猶予率(昭和29年〜56年)

I-108表 窃盗事犯者の執行猶予取消人員及び取消率(昭和29年〜55年)

 保護観察付執行猶予と単純執行猶予を比べると,取消率は,各年次とも,前者が後者のおおむね2倍ないし3倍となっている。また,同一罪名による取消率では,昭和42年以前は,単純執行猶予が保護観察付執行猶予を上回る年次が多いが,43年以降はこの逆となっている。