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 昭和57年版 犯罪白書 第1編/第3章/第1節/1 

第3章 特殊な犯罪と犯罪者

第1節 最近における注目すべき犯罪

1 金融機関強盗

(1) 概  況
 I-52表は,最近5年間について,強盗一般及び金融機関強盗(銀行,相互銀行,郵便局,信用組合,信用金庫,農業協同組合,漁業協同組合等を対象とする強盗事犯をいい,証券会社,庶民金融機関等に対するものは含まない。)の認知(発生)件数,検挙件数及び検挙率を見たものである。強盗の認知件数は,昭和53年に一度減少したが,54年以降増加傾向にあり,56年は,前年より5.3%増の2,325件となっている。これに対し,金融機関強盗は,51年の21件から急激な増加傾向を示し,56年では,前年より14.7%(22件)増の172件に達している。このように,金融機関強盗の増加率は,強盗一般のそれに比べかなり高くなっている。次に,検挙率について見ると,強盗一般では,各年次とも75%を超え,56年では81.5%であるのに対し,金融機関強盗では,各年次とも70%未満であり,56年は,59.9%と強盗一般に比べ低くなっている。

I-52表 強盗及び金融機関強盗事犯の認知・検挙件数(昭和52年〜56年)

 I-53表は,最近5年間における金融機関強盗の認知件数,検挙件数を被害金融機関の種類別に見たものである。昭和52年及び53年では,銀行が最も多く,以下,郵便局,信用金庫等(信用組合を含む。),農協等(漁協を含む。)の順であったが,その後,郵便局,信用金庫等が急増し,56年では,郵便局が69件で最も多く,銀行及び信用金庫等が各42件でこれに続いている。検挙状況を見ると,いずれの年次も,銀行及び信用金庫等で検挙率が高く,郵便局及び農協等はこれに比べて低くなっている。

I-53表 金融機関強盗事犯の認知・検挙件数(昭和52年〜56年)

I-54表 金融機関強盗事犯の月別発生件数(昭和56年)

(2) 昭和56年の概要
ア 発生状況
 昭和56年の月別発生件数は,I-54表のとおりであり,2月(21件),9月及び10月(各20件)が多く,1月(9件),6月(8件)が比較的少ない。次に,曜日別発生件数を見ると,I-55表のとおり,火曜日(37件),金曜日(36件)が多く,土曜日(20件)が最も少ない。発生の時間帯を見ると,I-56表のとおり,午後2時台が40件で最も多く,次いで,午前11時台(32件),午後零時台(30件)などの順となっている。発生の地域を都道府県別に見ると,北海道及び神奈川県が各16件,東京都が15件,福岡県が14件,大阪府及び愛知県が各13件などとなっている。
 なお,昭和56年に発生した172件中,既遂は108件(62.8%),未遂が64件(37.2%)となっており,未遂事件の割合が前年より6.5%増加している。
イ 検挙状況
 検挙率は59.9%で,前年の68.7%に比べかなり低下している。検挙された103件について,その端緒を見ると,現行犯逮捕が47件(45.6%),犯行後の緊急配備中が22件(21.4%)などとなっている。前年に比べると現行犯逮捕が減少しており,これが検挙率の低下の原因と思われる。

I-55表 金融機関強盗事犯の曜日別発生件数(昭和56年)

I-56表 金融機関強盗事犯の発生時間帯(昭和56年)

ウ 犯行状況
 犯人の携帯凶器について見ると,I-57表のとおりである。何らの凶器も携帯していないものは4件にすぎない。携帯凶器の種類では,包丁・日本刀等の刃物類が58.1%と最も多いが,銃器(けん銃,猟銃)・模造銃器類も22.7%を占めている。なお,銃器携帯事件のうち,実際に発砲した事件は4件である。
 覆面など犯人の識別を妨げる物の着装状況について見ると,I-58表のとおりである。172件中,変装をしていなかったものは37件(21.5%)で,他は何らかの変装をし,自己の識別を妨げる方策を講じていた。
 犯行の態様について見ると,人質をとって立てこもる事件はなかったが,一時的に銀行員や顧客などを拘束する人質的犯行が49件(28.5%)あり,前年より大幅に増加している。

I-57表 金融機関強盗事犯の携帯凶器の有無及びその種類(昭和56年)

I-58表 金融機関強盗事犯の覆面等の有無(昭和56年)

I-59表 金融機関強盗犯人の犯行時年齢層(昭和56年)

I-60表 金融機関強盗犯人の犯行時職業(昭和56年)

 犯行に車両を使用した事件は102件(59.3%)あり,そのうち,盗難車を使用したものが67件(65.7%)を占めている。
エ 犯人像の特質
 検挙された犯人103人はいずれも男である。犯行時の年齢層を見ると,I-59表のとおりであり,30歳代が43人(41.7%)で最も多く,以下,20歳代の25人(24.3%),40歳代の20人(19.4%)の順となっている。次に,犯行時の職業について見ると,I-60表のとおり,無職が56人(54.4%)と過半数を占めている。有職者の中では,自営業及び工員が各10人と比較的多くなっている。なお,その他の16人の中には,中学生が3人(触法少年を含む。),公務員が2人いる。犯人の前歴関係について見ると,59人(57.3%)は初犯者であり,前歴を有する者44人のうちでは,窃盗の前歴を有する者が24人(54.5%)を占めている。なお,殺人の前歴を有する者が1人,強盗の前歴を有する者が6人いる。

I-61表 金融機関強盗犯人の犯行動機(昭和56年)

 次に,犯行の動機について見ると,I-61表のとおりである。「サラ金等の借金返済のため」が59人(57.3%),「生活に窮して」が24人(23.3%),「遊興費欲しさ」が11人(10.7%)などとなっており,借金返済型が多い。