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 昭和56年版 犯罪白書 第4編/第1章/第3節/4 

4 薬物犯罪

(1) 少年の薬物事犯の動向
 IV-24表は,昭和53年以降最近3年間の少年の薬物事犯の送致人員及び少年比の推移を示したものである。53年と55年を比較すると大麻取締法違反は減少しているのに対して,覚せい剤取締法違反,毒物及び劇物取締法違反等は増加し,55年においては,覚せい剤取締法違反は,2,031人,毒物及び劇物取締法違反は,2万7,677人となっている。
 そこで,以下,覚せい剤取締法違反及び毒物及び劇物取締法違反の少年に焦点をあてて説明する。

IV-24表 少年の薬物事犯送致人員及び少年比(昭和53年〜55年)

(2) 薬物濫用少年の特質
 シンナー等有機溶剤の濫用は,昭和20年代後半の覚せい剤,30年代の睡眠薬に続いて,42年以降非行として表面化したが,当時は虞犯として処理されていた。47年の毒物及び劇物取締法の一部改正後,一時減少したが,49年以降再び増勢に転じている。IV-25表は,最近5年間のシンナー等濫用少年の学職別補導人員を示したものである。55年における補導人員は4万5,161人で,前年より4,728人の増加となっている。学職別に見ると,有職少年が39.2%で最も多く,次いで,学生・生徒の35.2%,無職少年の25.6%となっている。

IV-25表 シンナー等濫用少年の学職別補導人員(昭和51年〜55年)

 覚せい剤事犯は,昭和20年代後半から30年代初めにかけて第一の流行期が見られたが,その後の厳しい取締りが効果を挙げ,一時は急速に沈静化した。ところが,40年代後半以降再び増加傾向を示して現在に至り,戦後第二の流行期に入っているものと見られる。IV-26表は,最近3年間における覚せい剤事犯少年の学職別検挙人員を見たものであるが,55年には前年より368人増加して2,031人となっている。学職別では,無職少年が52.0%,有職少年が38.9%,学生・生徒が9.1%となっている。

IV-26表 覚せい剤事犯少年の学職別検挙人員(昭和53年〜55年)

 IV-13図は,一般保護少年の非行名と前処分の回数別終局人員の構成比を見たものである。総数で見ると,処分歴のない者は7割を超えているが,非行名別に見ると,処分歴のある者の比率は,覚せい剤取締法違反に最も多く64.6%であり,毒物及び劇物取締法違反は45.2%となっている。特に,覚せい剤取締法違反は,4回以上の処分歴を有する者が多い。
 IV-27表は,一般保護少年の非行名と共犯の有無の関係を見たものである。総数において,2人以上の共犯によるものは55.8%に及んでいる。中でも,毒物及び劇物取締法違反中の濫用行為の共犯率(2人以上共同して犯罪を犯した者の総数に対する比率)は,79.9%と極めて高く,この種事犯が少年の共犯事件として犯されることが多いことを示している。また,覚せい剤取締法違反の共犯率は47.2%となっている。

IV-13図 一般保護少年の非行名別前処分回数別終局人員の構成比(昭和54年)

IV-27表 一般保護少年の非行名別共犯者の有無(昭和54年)

(3) 薬物濫用少年の処分状況
 IV-14図は,一般保護少年の非行名と終局決定別終局総人員の構成比を図示したものである。総数で見ると,審判不開始,不処分の比率が著しく高く9割近くを占めているが,非行名別に見ると,麻薬取締法違反等に対する検察官送致決定の比率が著しく高く40.0%となっている。覚せい剤取締法違反については,保護処分決定の比率が55.6%の高率を示している。
 少年の薬物濫用行為は,厳しい取締りにもかかわらず,逐年増加しており,しかも,シンナー等有機溶剤濫用による死亡事故が毎年少なからず発生しアいる事実を考えると,この種少年非行の今後の推移には,重大な関心を払う必要がある。

IV-14図 一般保護少年の非行名別終局決定総人員の構成比(昭和54年)