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 昭和56年版 犯罪白書 第3編/第3章/第2節/2 

2 保護観察における処遇

(1) 概  況
 保護観察を行う機関は保護観察所であり,昭和55年12月31日現在において,本庁50庁,支部3庁のほか,22箇所に駐在官事務所が置かれている。保護観察における処遇は,原則として,保護観察官及び保護司の協働によってなされている。保護観察官は,国家公務員であって,心理学,教育学,社会学その他の更生保護に関する専門的知識に基づく役割が期待され,保護司は,法務大臣から委嘱を受けた民間篤志家であって,地域性,民間性等の特色に基づく役割が期待されている。保護観察官は,保護観察開始当初において,関係記録や本人との面接から得た資料等に基づき,保護観察実施上の問題点を明らかにして,処遇計画を作成する。この処遇計画にそってなされる直接的な指導,援助は,保護司によって行われる場合が多いが,保護観察官は,保護司から提出される処遇経過報告を検討し,新たな問題が生じた場合はその都度,又は随時,保護司と協議し,必要に応じて本人を呼び出し,あるいは直接本人宅等に赴いて必要な措置をとることとされている。このような保護観察官と保護司の協働態勢による処遇活動は,我が国の保護観察の大きな特色である。しかし,保護観察官の定数が少ないこともあり,処遇活動における保護司への依存度が極めて高いという問題点もある。
 保護観察官と保護司の協働において,保護観察官の専門性を効率的に活用するため,あらかじめ保護観察対象者を分類して処遇する分類処遇制度及び保護観察官の定期駐在制度が採用されている。
 分類処遇は,交通事件等の一部の者を除く保護観察対象者について,処遇の難易に応じてA,Bの二段階に分類し,処遇が困難であると予想されるA分類の者に対しては,保護観察官による処遇を計画的,積極的に行おうとするものである。昭和55年12月31日現在における分類状況は,III-72表のとおりである。Aに分類された者の割合は,総数では7.4%であるが,少年院仮退院者の場合は26.5%と著しく高い。仮出獄者における割合が7.9%と低いのは,仮出獄者には保護観察期間の短い者が多く,かつ,保護観察期間が2月未満の者は原則としてBに分類されることによるものと思われる。

III-72表 保護観察対象者の分類状況(昭和55年12月31日現在)

III-73表 保護観察官の定期駐在実施状況(昭和55年)

 定期駐在は,あらかじめ定めた場所に保護観察官が定期的に出張し,本人及び家族等関係者との面接,保護司との連絡協議等を積極的・効率的に実施しようとするものである。昭和55年には,III-73表に見るとおり,全国で5,795回の定期駐在が実施され,1回当たり平均8.2人に面接して,指導,助言等が行われている。
 長期間にわたる拘禁生活によって社会から隔離されている長期刑受刑者(無期刑及び執行刑期8年以上の受刑者)の円滑な社会復帰を図るため,長期刑仮出獄者に対する中間処遇が実施されている。この制度は,長期刑により仮出獄を許された者のうち相当と認めるものについて,3月ないし6月の期間更生保護会の施設に居住させ,生活訓練を中心とした処遇及び職業についての援助等を行った上,その円滑な社会生活への移行を図ろうとするものであり,昭和55年においては,無期刑仮出獄者25人,有期刑仮出獄者33人について,それぞれ中間処遇が実施された。
(2) 援助の措置
 保護観察に付されている者が,疾病のため,又は適当な住居や職業がないため更生を妨げられるおそれがある場合は,公共の衛生・福祉等の機関から必要な援助を得ることについて助言,指導等がなされているが,その援助が直ちに得られない場合,又は得られた援助だけでは更生のために十分でないと認められる場合は,保護観察所において,応急の援助の措置がとられている。これには,保護観察所において自ら行う食事の給与,衣料の給与,医療の援助,帰住旅費の支給等のほか,更生保護会等に委託して行う宿泊保護があり,昭和55年におけるこれらの援助措置の実施状況は,III-74表のとおりである。保護観察所において自ら行った援助措置では,作業着等の衣料給与が768人と最も多く,食事給与がこれに次いでいる。保護観察対象者の種類別に見ると,食事給与,衣料給与,医療援助のいずれにおいても,仮出獄者が最も多いが,旅費支給においては,保護観察付執行猶予者が最も多い。更生保護会等に宿泊保護を委託された人員では,仮出獄者の4,444人が最も多く,総数5,383人のうちに占める割合は82.6%となっている。

III-74表 援助措置の実施人員(昭和55年)

(3) 成績良好者に対する措置
 保護観察の結果,行状が安定し,更生意欲が強く,再犯のおそれがないと認められる者に対しては,保護観察の期間中であっても,保護観察を終了し,又は停止する措置(以下「良好措置」という。)がとられる。良好措置は,保護観察対象者の種類によって異なり,保護観察処分少年については,保護観察を終了する解除又は保護観察を一時停止する良好停止があり,少年院仮退院者については,保護観察を終了する退院があり,刑の短期を経過した不定期刑仮出獄者については,仮出獄期間を短縮して終了する不定期刑終了があり,保護観察付執行猶予者については,保護観察を仮に解除する仮解除がある。

III-75表 保護観察における良好措置の実施人員(昭和54年,55年)

 III-75表は,昭和55年に良好措置(良好停止を除く。)を受けた人員を前年と比較して示したものである。55年において,解除の措置を受けた保護観察処分少年の合計は4万2,472人,退院の措置を受けた少年院仮退院者の合計は579人,不定期刑終了の措置を受けた仮出獄者は7人,仮解除の措置を受けた保護観察付執行猶予者は1,721人であり,不定期刑終了を除いて,いずれも前年より増加している。ただし,保護観察処分少年のうち,交通短期保護観察事件を除いた交通事件の保護観察処分少年の解除については,前年に比べて,若干減少している。
(4) 成績不良者に対する措置
 保護観察に付されている者が,指導監督に服さず,更生意欲に欠け,行状が不安定である場合には,保護観察所に呼び出して事情を聴取し,助言,説示を行うなどの措置をとり,また,一定の住居に居住しない場合,遵守事項に違反したことを疑うに足りる十分な理由があって呼出しに応じないなどの場合には,裁判官の発する引致状により引致を行い,更に必要に応じて,一定の期間所定の施設に留置する措置がとられる。昭和55年において,引致された者は174人,留置された者は85人である。
 保護観察に付されている者が,保護観察の期間中守るべき遵守事項に違反した場合,あるいは再犯に陥った場合などには,これに対する措置(以下「不良措置」という。)がとられる。不良措置も良好措置と同様に,保護観察対象者の種類によって異なり,保護観察処分少年については,新たな処分を期待して行う家庭裁判所への通告が,少年院仮退院者については,少年院に再収容する戻し収容が,仮出獄者については,所在が明らかになるまで刑期の進行を止める保護観察の停止及び施設に再収容する仮出獄の取消しが,保護観察付執行猶予者については,施設に収容して刑を執行する執行猶予の取消しが,婦人補導院仮退院者については,婦人補導院に再収容する仮退院の取消しがある。
 III-76表は,昭和55年に不良措置(家庭裁判所への通告を除く。)を受けた人員を前年と比較して示したものである。55年においては,少年院仮退院者で少年院に戻し収容された者25人,仮出獄者で保護観察を停止された者897人,仮出獄を取り消された者742人,保護観察付執行猶予者で遵守事項違反によって執行猶予を取り消された者220人で,前年に比べると,仮出獄の取消しを除いて,いずれも増加しているが,特に,執行猶予の取消しの増加が著しい。

III-76表 保護観察における不良措置の実施人員(昭和54年,55年)