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 昭和56年版 犯罪白書 第1編/第1章/第1節/2 

2 主要刑法犯の動向

 刑法犯の主要なものについて,財産犯,凶悪犯,粗暴犯,性犯罪,過失犯及びその他の刑法犯に分けて,最近5年間の動向及び昭和55年における特徴を概観する。
(1) 財産犯
 最近5年間における財産犯の認知件数及び検拳人員を見ると,I-3表のとおりである。窃盗,詐欺,横領,背任及び賍物について,昭和51年の認知件数を100とする指数で見ると(以下,本項で同じ),55年では,財産犯総数及び窃盗はいずれも111,詐欺は99,横領は183,背任は69,賍物は86である。

I-3表 財産犯の認知件数及び検挙人員

I-4表 窃盗の主要手口別認知件数(昭和51年〜55年)

 最近5年間における窃盗の主要手口別認知件数を見ると,I-4表のとおりである。あき巣ねらい及びすりの減少傾向,自動車盗の横ばい傾向に対し,オートバイ盗及び車上ねらいの増加傾向が顕著であり,昭和55年には,オートバイ盗は約11万件,車上ねらいは約13万件に達し,いずれも過去5年間の最高となっている。一方,増加傾向にあった自転車盗は,54年にやや減少したが,55年には再び増加して約25万件になり,万引きもほぼ同様の傾向を示し,55年には12万件を超えて過去5年間の最高となった。
 そのほかの手口では,最近5年間について見ると,金庫破り及び自動販売機荒らしが一貫して増加している(昭和55年において,金庫破りは2,866件,自動販売機荒らしは1万9,766件)。
 これら手口別窃盗について,年齢層別検挙人員を見ると,少年層の占める比率が高いものが多く(例えば,昭和55年で自動車盗は61.7%,オートバイ盗は96.8%,車上ねらいは55.7%,万引きは53.2%,自動販売機荒らしは79.2%),窃盗が業過を除く刑法犯認知件数の8割以上を占める事実から見ると,最近における刑法犯の増加傾向は,特に,少年の窃盗非行の増大に起因するところが大きいと思われる。
 なお,最近の新しい手口であるCD(CashDispenser,現金自動支払機)に関連する犯罪は,I-5表のとおり,昭和51年の23件から55年の207件へ5年間に9倍に激増している。この犯罪の主な態様は,他人名義のCDカードを窃取し,暗証番号を探知したうえでCDから現金を引き出すものであり,金融機関におけるコンピュータ・システムの普及による新しい犯罪形態を示すものである。
 最近5年間における詐欺の主要手口別認知件数を見ると,I-6表のとおりである。同表は認知件数の多い5種類の手口のみを示したものであるが,昭和55年には寸借,無銭飲食,商品,代金,月賦の各手口による詐欺がすべて前年より増加していることが注目される。
 横領事犯は,認知件数,検挙人員共に,この55年間一貫して増加しているが,特に,昭和55年における増加率は著しく高い(前年より認知件数で29.4%,検挙人員で31.1%増)。罪名別認知件数を見ると,I-7表のとおり,路上に放置されている自転車の乗り逃げを主とする占有離脱物横領の増加率が55年において著しく高く(34.2%増),全横領事犯の約8割を占めるに至ったが,他方,54年まで全体として減少傾向にあった単純横領及び業務上横領も55年に増加に転じ,特に,業務上横領は前年より19.3%増加している。

I-5表 CD犯罪の認知・検挙件数(昭和51年〜55年)

I-6表 詐欺の主要手口別認知件数(昭和51年〜55年)

I-7表 横領事犯の罪名別認知件数(昭和51年〜55年)

(2) 凶悪犯
 最近5年間の凶悪犯の認知件数及び検挙人員は,I-8表のとおりである。認知件数の指数で見ると,凶悪犯の総数では,昭和53年に指数90まで減少したが,54年及び55年はそれぞれ93と増加傾向を示している。凶悪犯のうち,殺人は5年間一貫して減少を続け,55年には指数80(1,684件)になっているが,これに対し強盗は53年までの減少傾向から54年に増加に転じ,55年には指数105(2,208件)になっており,特に,55年において増加率が高いこと(前年より8.1%増)並びに強盗のうちでも悪質な強盗殺人,強盗傷人及び強盗強姦の認知件数の合計が54年から2年連続して増加し,55年には995件(強盗全体の45.1%)になっていることが注目される。
 また,減少傾向にある殺人においても,最近は,犯人が被害者との精神的葛藤(激情,えん恨など)その他の動機から殺人を犯す通常の事件とは異なり,被害者と面識関係のない犯人による無差別的な,いわゆる「通り魔的」な殺人(例えば,昭和55年3月18日に大阪府富田林市内で発生した手製スプリング銃による女性殺害事件,同年8月19日に東京都新宿区で発生したバス放火による6人殺害事件など)という異常な事件が多発(55年では166件)している。

I-8表 凶悪犯の認知件数及び検挙人員

 保険金目的の殺人事件は,I-9表のとおり,昭和55年には前年より減少しているが,なお検挙件数10件,検挙人員15人,殺害人員4人に及んでいる。
 なお,激増状況にある金融機関強盗については,第2編で詳述されている。

I-9表 保険金目的の殺人事件(昭和51年〜55年)

(3) 粗暴犯
 最近5年間における粗暴犯の認知件数及び検挙人員は,I-10表のとおりである。認知件数の指数で見ると,粗暴犯は全体的に減少傾向にあり,昭和55年において,総数では78,傷害・同致死では81,暴行では74,脅迫では76,恐喝では77になっているが,凶器準備集合のみは114と増加傾向にある。
(4) 性犯罪
 最近5年間における性犯罪の認知件数及び検挙人員は,I-11表のとおりである。認知件数の指数で見ると,性犯罪は全体的に減少傾向にあり,昭和55年において,総数では80,強姦では81,公然わいせつでは62になっているが,強制わいせつのみは105に増加している。

I-10表 粗暴犯の認知件数及び検挙人員(昭和51年〜55年)

I-11表 性犯罪の認知件数及び検挙人員

(5) 過失犯
 最近5年間における過失犯の認知件数及び検挙人員は,I-12表のとおりである。認知件数の指数で見ると,昭和55年において,過失犯総数では102,業過が103であり,53年以降3年連続して増加しているが,他方,過失致死傷及び失火は減少傾向にあり,55年ではそれぞれ43と64になっている。
(6) その他の刑法犯
 その他の刑法犯として,放火,略取・誘拐,文書偽造・有価証券偽造,賭博の各罪を取り上げ,最近5年間における認知件数及び検挙人員を見ると,I-13表のとおりである。

I-12表 過失犯の認知件数及び検挙人員

I-13表 放火等の認知件数及び検挙人員

[2]検挙人員

I-14表 保険金目的の放火事件(昭和51年〜55年)

I-15表 身代金目的誘拐事件認知・検挙件数(昭和51年〜55年)

 放火の認知件数は,昭和52年に戦後最高の2,155件を記録したが,53年以後も2,000件台を維持し,55年には2,014件発生している。放火の検挙率が高い(55年で87.9%)のにかかわらず,検挙人員が比較的少ない(同年で948人)のは,統計上の検挙人員には含まれない触法少年(14歳未満)が312人いるためである。保険金目的の放火事件は,I-14表のとおり,55年には前年より減少しているが,なお検挙件数21件,検挙人員29人に及んでいる。
 略取・誘拐の認知件数は,昭和55年において指数81(139件)となっているが,近年は略取・誘拐のうち,特に悪質な身代金目的誘拐事件が多発しており,I-15表のとおり,55年には13件発生し(前年は10件),誘拐被害者のうち3人が殺害(前年は1人)されている。
 文書偽造・有価証券偽造の認知件数は,この5年問おおむね増加傾向にあり,昭和55年には指数120(9,567件)になっている。賭博は55年には前年よりやや増加したが,5年間の動向を見ると,おおむね減少傾向にあり,55年では指数64になっている。