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 昭和55年版 犯罪白書 第1編/第4章/第2節/2 

2 強盗及び薬物犯罪の動向

 次に,典型的な都市型犯罪である強盗と薬物犯罪について,アメリカ,フランス及びドイツ連邦共和国の最近の動向を詳しく見ることとする。
 アメリカの都市(人口25万人以上の55都市及び人口100万人以上の6大都市)における最近2年間の強盗発生件数は,I-91表のとおりであり,1978年において,人口の18.6%を構成する55都市だけで,全国の強盗発生件数の58.3%を占め,また,人口の8.2%を構成するニューヨーク,シカゴ,ロサンゼルス等の6大都市が,全国の強盗発生件数の31.9%を占めている。また,6大都市の強盗約13万件のうち,銃器が使用された件数は約5万件(37.1%)である。

I-90表主要犯罪発生件数の都市別国際比較

I-16図 主要犯罪発生率の推移

I-91表 都市の強盗発生件数

I-92表 都市の薬物犯罪検挙人員

I-93表 都市の強盗・薬物犯罪検挙人員の年齢層別構成比

 アメリカの人口25万人以上の都市における薬物犯罪の動向を,最近4年間の検挙人員について見ると,I-92表のとおりであり,1978年において,全国の検挙人員のうち,人口25万人以上の55都市の検挙人員が27.0%を占めている。10万人当たりの検挙人員で見ると,全国が273.8人,55都市が398.7人であるから,人口比において,55都市は全国の約1.5倍の検挙人員を示している。また,55都市の薬物犯罪の検挙人員は,最近4年間,一貫して増加傾向にある。
 アメリカの全都市の強盗及び薬物犯罪の検挙人員の年齢層別構成比を見ると,I-93表のとおりであり,1978年において,全都市の検挙人員のうち,強盗では,24歳以下の若年成人・少年層が75.4%,19歳以下の少年層が50.0%を占め,薬物犯罪では,若年成人・少年層が73.7%,少年層が43.5%を占めている。
 フランスのパリ地区における最近2年間の強盗発生件数は,I-94表のとおりであり,1978年において,人口の11.4%を構成する首都圏パリ地区だけで,全国の強盗発生件数の48.8%を占めている。パリ地区の強盗約1万4,000件のうち,銃器が使用された件数は約600件(4.3%)である。
 フランスのパリ地区における薬物犯罪の動向を最近4年間の検挙人員について見ると,I-95表のとおり,1978年において,パリ地区だけで全フランスの検挙人員の23.8%を占めており,10万人当たりの検挙人員で見ると,パリ地区は全国の約2.1倍(全国は14.7,パリ地区は30.6)の検挙人員を示している。

I-94表都市の強盗発生件数

I-95表 都市の薬物犯罪検挙人員

1-96表 薬物犯罪検挙人員の年齢層別構成比

 フランスにおける薬物犯罪検挙人員の年齢層別構成比を見ると,I-96表のとおり,1978年において,全フランスの薬物濫用者のうち,25歳以下の若年成人・少年層が84.6%,20歳以下の少年層が46.5%を占めている。なお,強盗の検挙人員の年齢層別構成比は不詳であるが,同年の強盗検挙人員1万710人のうち,少年(13歳以上18歳未満)が24.7%,成人(18歳以上)が75.8%となっている。
 ドイツ連邦共和国の人口50万人以上の都市における最近2年間の強盗発生件数は,I-97表のとおりであり,1978年において,人口の17.3%を構成する12都市だけで,全国の強盗発生件数の41.7%を占めている。また,ハンブルクの強盗約1,500件のうち,銃器が使用された件数は約200件(14.2%)である。

I-97表都市の強盗発生件数

 同国の都市における薬物犯罪の動向を,最近4年間の発生件数及び検挙人員について見ると,I-98表のとおりであり,1978年において,12都市だけで同国の発生件数の31.7%を占めており,10万人当たりの発生件数で見ると,12都市は全国の約1.8倍(全国は69.9,12都市は127.9)の発生率を示している。また,12都市の発生件数及び西ベルリン,ハンブルクの検挙人員は,4年間,一貫して増加しており,特に,不法取引及び密輸事犯の増加傾向が顕著である。
 同国の都市における強盗及び薬物犯罪の検挙人員の年齢層別構成比を見ると,I-99表のとおりであり,1978年において,ハンブルクの検挙人員のうち,強盗では,24歳以下の若年成人・少年層が62.1%,20歳以下の少年層が47.6%,薬物犯罪では,それぞれ65.1%と34.6%を占めている。

I-98表 都市の薬物犯罪発生件数及び検挙人員

I-99表 都市の強盗・薬物犯罪検挙人員の年齢層別構成比

 以上のような欧米3箇国の都市における強盗及び薬物犯罪の動向を,我が国の場合と比べて見ると,次の諸点を指摘することができる。第一に,強盗の都市集中化傾向は,前記のように,東京の発生率が全国の約2.6倍であるという数値が示すように,我が国でも共通に見られるが,強盗における銃器使用事件の比率は,昭和53年において,全国の強盗1,932件中の0.9%(18件)を占めるにすぎず,欧米諸国に比べて極めて低い(昭和54年版犯罪白書参照)。第二に,我が国の都市における薬物犯罪の検挙人員を見ると,I-100表のとおり,最近4年間,覚せい剤事犯は特に東京と大阪で増加傾向にあり,10万人当たりの検挙人員で見ると,53年において,全国の15.4人に対し,東京29.2人,大阪48.6人であり,東京は全国の約1.9倍,大阪は約3.2倍という高い数値を示しており,欧米諸国と共通する薬物犯罪の都市集中化傾向が見られる。第三に,強盗及び薬物犯罪の検挙人員の低年齢化は,我が国でも近年顕著になり,強盗については,第1編第1章第1節「刑法犯の概況」で述べたように,53年において,交通関係業過を除く刑法犯検挙人員のうち,24歳以下の若年成人・少年層は48.9%,19歳以下の少年層は28.5%であり,薬物犯罪については,第1編第2章第1節「薬物犯罪」で述べたように,覚せい剤事犯の検挙人員のうち,若年成人・少年層は21.4%,少年層は8.0%である。欧米3箇国及び我が国の年齢層別の区分はそれぞれ異なっているため,若年成人・少年層の範囲を同じ規準で示すことはできないが,概して言えば,都市型犯罪としての強盗及び薬物犯罪の低年齢化傾向は,我が国の場合,欧米型の動向を示しつつも,その程度はいまだ欧米諸国におけるほど深刻化してはいないように考えられる。

I-100表 都市の薬物犯罪検挙人員